#author("2024-10-07T18:00:22+09:00;2023-12-23T15:36:47+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko") #author("2024-10-07T18:02:32+09:00;2024-10-07T18:00:22+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko") *物語 &small(story); ~ 人はなぜ、物語をつくるのか。映画、アニメ、漫画、絵本…多くのビジュアルコンテンツは「物語」の存在を基礎として成立しています。ここでは、それを空間や時間、登場人物、そしてその構造といった観点から考察してみます。 物語(口承文学)は、音楽・絵画とともに太古の昔から存在する 物語の起源は、人類の定住(あるいは農耕)、タブーの起源とともにある 物語は、人間の世界に「内と外」「生と死」「俗と聖」があることを教える 物語は、俗なる時間に溜め込んだ富を聖なる時間に蕩尽する快楽を教える 結果、物語は「秩序の組み換えのプロセス」を綴ったものとなる 物語とは、本能が破綻した人類に共通の病である &scale(80){'''すべての社会システムは、同一状態にとどまらないように構造化されている''' レヴィ=ストロース}; ~ &scale(80){[註]:Story と Narrative((ストーリーが物語の「内容そのもの」を指すのに対して、ナラティブは物語の「語られ方」を指します。ストーリーは語り手によって変化しませんが、ナラティブは同じ事象でも語り手、また聞き手によって異なるものになります。))という2つの言葉があって、日本語ではいずれも「物語」となりますが、ここで話題にしているのはストーリーの方です。}; &scale(80){[註]:Story と Narrative((ストーリーが物語の「内容そのもの」を指すのに対して、ナラティブは物語の「語られ方」を指します。ストーリーは語り手とは独立した生産完成品ですが、ナラティブは語り手、また聞き手によって異なる「生産性」を意味します。))という2つの言葉があって、日本語ではいずれも「物語」となりますが、ここで話題にしているのはストーリーの方です。}; ~ ~ **物語の基本構造 ***視聴者・読者を魅きつける契機 -欠如をつくる:何かが「足りない」状況が物語を起動する。 --参考:[[ぼくを探しに>Google: ぼくを探しに]] -疑問を提示する:闇、死体、異質なもの、矢印、視線・・・ サスペンスとは、もともと Suspended(緊張状態)を意味する言葉です。 -タブー(禁忌)を設定する:見てはいけない、入ってはいけない・・ --参考:[[見るなの座敷>Google:見るなの座敷]] --参考:[[異類婚姻譚>Google:異類婚姻譚]] / [[関敬吾「日本昔話集成」>Google: 関敬吾 日本昔話集成]] ~ ***空間の設定 -光と闇、秩序と混沌、大通りと路地裏・・ 以下の2つのイメージを比較してみましょう [[路地>GoogleImage:路地]] / [[造成地>GoogleImage:造成地]] 整地された闇のない空間からは、物語は生まれそうにありません。物語が生まれるためには、空間の設定に「コントラスト」が必要です。 //余談ですが・・[[Google:神社の数 コンビニの数]] -記号論的な観点から 町と森、町と村、庭と裏庭、上の階と下の階・・・。「場所」は差異化され、関係づけられることで「意味」を担うようになります。 -妖怪の出る場所 妖怪は、空間的な境界領域(辻、河原、橋の下・・)に出現します。 --参考:妖怪と幽霊の違い > 場所に出る妖怪 / 人に憑く幽霊 [[柳田国男「妖怪談義」>Google:柳田国男 妖怪談義]] &size(12){[[GoogleImage:妖怪]]}; &size(12){[[GoogleImage:幽霊]] ←少し怖いので覚悟して…}; ~ ***時間の設定 -過去と現在、未来と現在をつなぐ -妖怪の出る時間 妖怪は、時間的な境界領域(誰そ彼(たそがれ)、[[逢魔が時>GoogleImage:逢魔が時]])に出現します。 ~ ***登場人物の設定 -主役とは 登場シーンの多さや、セリフの多さは、実はあまり関係がありません。誰の視点で描かれているか、映像で言えば、誰の「視線」でショット間が編集されているかで、主人公が決まります。 -主たる登場人物の人数 一般に同時に記憶できるカテゴリ数 7±2 マジカルナンバー7(G.A.Millar) -トリックスター 物語には、トランプゲームにおけるジョーカーのように、敵か味方かわからない境界領域的なキャラクターが登場するものです。文化人類学では、そうした存在をトリックスター(いたずらもの)と言います。 ~ ***神話・昔話に共通した物語の構造は・・ -混沌としたスープ状の世界の中で、区分けが起こる。 -区分けられた中のひとつが物語の「中心」になる -空間的な周縁と中心との交流が描かれる -時間的な周縁(過去・未来)と中心(現在)とのつながりが描かれる ~ ~ **物語に関わる思考モデル ***中心と周縁 #image(中心と周縁/中心と周縁.png,right,40%) 我々は通常、我々を取り巻く世界を、 友好的なものと敵対的なものに 分割する思考に馴れている。 山口昌男(文化人類学・民俗学) 物語は、市中に住む「常民」と、その外部に住む「異人」との交流がテーマになることが多くあります。特に日本の昔話には「村人」と「異人」という構図で説明できるものが多くあることは、例を挙げるまでもないでしょう。 -参考:[[まんが日本昔ばなしデータベース>http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/]] -参考:[[Google:まれびと 異人]] ~ ***定常開放系(散逸構造系) #image(Homeostasis/homeostasis.png,right,40%) 物語の構造を説明する「中心と周縁」のモデルは、実は、生命体のホメオスタシス(恒常性・動的な秩序)を説明するモデルと同じです。 #clear ~ ***境界領域 -魑魅魍魎の住む世界 -位置づけがあいまいないもの(排泄物)、節のないもの(ミミズ、蛇、髪) -あちらのゴミはこちらの宝・・という発想 ~ ***贈与と返礼 -贈与と返礼は多くの物語に共通に見い出されます。 人間の作り出す社会システムはすべて、 同一状態にとどまらないように構造化されている。 クロード・レヴィ=ストロース -社会が存在しつづけるには、絶えず変化することが必要です。以下のいずれも、構造的な「変化」をするような社会構造を持っています。 --熱い社会:絶えず新しい状態へと歴史的に変化する社会(文明社会) --冷たい社会:歴史的変化を排除し、新石器時代と変わらぬ無時間的な構造を維持している社会(野生の思考が領する社会) ~ ***秩序の組み換えについて 秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない ルドルフ・シェーンハイマー(生化学) ~ ***第三項排除 排除された第三項が、闇から全体をコントロールする・・という構図は多くの物語で見られます。 闇の日本史 / いじめ / 鬼ごっこ / 野球 / 貨幣 / トランプのジョーカー 今村仁司「排除の構造」(現代思想・哲学) ~ ***物語は進化する|進「物」史観 まず最初に短い単純なお話がある。 こういうのを少しずつ変異させたり、組み替えたりして、 長い面白い物語が生まれてくるんだ。 原始的な生物が単に突然変異と遺伝子組み換えだけで 複雑な生物に進化したのと同じだろ? 金子邦彦, 1998, カオスの紡ぐ夢の中で, 小学館文庫, p.118 ~ ~ **物語のパターン ***物語の構造・分類に関する諸説 -[[ジョゼフ・キャンベル>Google:ジョゼフ・キャンベル]]の神話論 物語の主人公は、天命を受けて非日常の世界への旅に出る。そして、イニシエーションを経て、元の世界に帰還する。これが神話に共通の構造である。 文献:[[ジョゼフ・キャンベル 「千の顔をもつ英雄」>Google:ジョセフ・キャンベル 千の顔をもつ英雄]] --Calling(天命を授かる) --Commitment(旅の始まり) --Threshold(境界線) --Guardians(メンター、導師、守護者) --Demon(悪魔) --Transformation(変容) --Complete the task(問題の解決) --Return home(故郷への帰還) -[[ウイリアム・シェイクスピア>Google:ウイリアム・シェイクスピア]]による「36分類」 -[[ウラジミール・プロップ>Wikipedia:ウラジーミル・プロップ]]による「昔話の構造31の機能分類」 例)「行って帰る物語」 欠如 > 異界 > 変化 ・・「昔話の形態学」 ~ ***比較神話学に見る神話の型 マイケル・ヴィツェル(Michael Witzel)が提唱した「世界神話学」では、神話は以下のように分類されています。 -''パン・ガイア(Pan-Gaean)神話'' アフリカで誕生した現生人類最古の神話。 -''出アフリカ神話'' アフリカを出てインドに到着した頃の神話。 -''ゴンドワナ(Gondwana)神話'' ユーラシアの沿岸を移動してオーストラリアに到達した頃の神話。現在のサハラ以南のアフリカの神話と共通した特徴(創造神話の欠如、女性呪術師の欠如など)がある。 -''ローラシア(Laurasian)神話'' インドから東南アジア、中国、日本、シベリア、 北米、中米、南米に向かう流れと、インドからユーラシア内陸に向かう流れ、そしてインドから西へ向かってヨーロッパや北アフリカに流れた神話群。その特徴は、宇宙と世界の起源、神々の系譜、半神的英雄の時代、人類の出現、王の系譜の起源、世界の暴力的な終末(と復活)などが共通している。 ''付記'' -2億5千万年前 地球上にはひとつの超大陸パンゲア -1億5千万年前 北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に分裂 -1億年前ごろからそれぞれが徐々に分裂細分化 -ホモ・サピエンスがアフリカに登場するのは 30万年前ごろで、大陸はすでにほぼ現在の形になってからなので、ゴンドワナ神話やローラシア神話という言葉は、大陸分布と直接的に関係するものではありません。 ~ ***ミステリーの指針 推理小説を書く上での指針として以下のようなものがあります。いずれも同時代に小説家自らが著したものです。ミステリーを執筆してみたい方、まずはご一読下さい。もちろん、これらを踏まえた上で、あえて掟破りをした作品も多く存在します。 -[[ノックスの十戒>Google:ノックスの十戒]] [[ロナルド・ノックス>Wikipedia:ロナルド・ノックス]], 1928 -[[ヴァン・ダインの二十則>Google:ヴァン・ダインの二十則]] [[S・S・ヴァン・ダイン>Wikipedia:S・S・ヴァン・ダイン]], 1928 -[[チャンドラーの九命題>Google:チャンドラーの九命題]] [[レイモンド・チャンドラー>Wikipedia:レイモンド・チャンドラー]], 1949 ~ ***映画のストーリーパターン -映画のストーリーには、以下のような様々な定番の型があります。 --''バディもの(相棒もの)'' &scale(75){ホームズとワトソンの関係。前者が天才・変わり者、 後者が常識人。関係構造は漫才コンビと同様}; --タイムスリップもの --サスペンスもの --成長もの --ロードムービーもの --ファンタジーもの -映画の脚本に関する書籍には、様々なパターンが紹介されています。 --&small(ブレイク・スナイダー, 10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術, 2014, フィルムアート社); --&small(クリストファー・ボグラー, 物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術, 2013, アスキー・メディアワークス); --&small(ブレイク・スナイダー, SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術, 2010, フィルムアート社); --&small(貴志 祐介エンタテインメントの作り方, 2015, 角川学芸出版); ~ ~