Aspects of "photography" among today's young generation - On "sharing" photos in social design
写真術の登場以来、その存在意義の主軸が「記録」であることに変わりはないが、スマートフォン=カメラの常時携帯とインターネットによる地球規模での即時的な拡散・共有は、写真の可能性を一挙に拡大した。写真は我々の社会にとってどんな存在で、我々自身にどのような影響を与えているのか。従来の写真論とは異なる視点からの考察が求められている。
本稿は、2025年に若年層を対象に実施した「写真に関する意識調査」の結果報告と、そこから見出された「写真」の諸相に関する考察である。
調査項目の抽出にあたっては、複雑化する対象をクリアに捉えるべく「オブジェクト指向」の考え方を用いて、写真(オブジェクト) が持つプロパティ とメソッドを洗い出すことからはじめた。写真のサイズ、縦横比、撮影モード、被写体といった名詞・形容詞はプロパティで、写真を撮る、見る、編集するといった動詞はメソッドにあたる。
我々が日常的に使う「写真のXX」や「写真をXXする」といった表現に現れる言葉に加え、プログラミング言語上のイメージクラスに定義されたプロパティとメソッドをリストアップし、調査に値する項目を整理した結果、主な調査項目は、撮影、編集、保管、閲覧、公開、鑑賞、意識(動機)というジャンルに分類された。それぞれに量的評価、選択式、自由記述を含む数問を設定し、全35問のWeb調査フォームを作成した。アンケート調査は 2025年7月17日に実施。九州産業大学芸術学部の学生 259名から回答を得た。なお、調査対象者のカテゴリー情報としては、学年(1〜4)、性別、所属(5学科:芸術表現、写真・映像メディア、ビジュアルデザイン、生活環境デザイン、ソーシャルデザイン)の3種類の情報を得ている。
調査項目は多岐にわたるため、項目を絞って報告する。
3.1. 撮影頻度
撮影頻度は「べき分布」をなし、全体の中央値は「20 回/月」であった。所属間に有意な差は見られなかったが、学年は低いほど中央値が高く(H=11.319, p<0.05)、性別では女性の中央値が有意に高かった(U= 9111.0, p<0.01)。
3.2. 撮影機材
撮影機材については、その利用有無を複数選択式で尋ねた。
機材別の利用率は、スマートフォン99%、デジタル一眼26%、コンパクトデジタルカメラ10%、レンズ付フィルム5%、35mmフィルム3%であった。予想通りの結果であるがスマートフォンの存在感が圧倒的に大きいことがわかる。
デジタル一眼については 、所属別で写真・映像メディア学科が 66% と突出しており(当然の結果)、性別では、女性28%、男性21%と差がついている。またレンズ付きフィルムについても、女性 6%、男性2%と同様の差があった。
ちなみに「カメラ購入にあたって何を重視するか」という質問に「不要(スマホで十分)」という回答が一定数あり、男性17%に対して女性は7%と、ここでも写真(カメラ)に対する女性の関心の高さが浮き彫りとなった。
3.3. 撮影方法等
本調査では、撮影時に操作する項目、構図の縦・横、また利用するモニター・ファインダー等についても尋ねた。
カメラの操作については、専門的に学んでいる写真・映像メディア学科を除いてカテゴリー間の差はなく、大半が自動、すなわちカメラまかせで撮影していることがわかった。
構図については性別に差があり、女性は縦構図が横構図の2倍、男性は縦横ほぼ同率という結果であった。
撮影対象の確認についてはカテゴリ間の差がなく、6割がライブビューモニター、1割がビューファインダー、3割がノーファインダーという結果であった。
3.4.その他の項目について
本調査では、自身が撮影した写真についての編集、保管、閲覧、公開の頻度についても尋ねていた。結果を要約すると、各項目において写真・映像メディア学科の頻度が高くなること(当然)、編集、保管、閲覧に関して性別で女性のポイントが高いこと、また、公開に関して芸術表現学科の頻度が低い(あまり公開しない)ことが目立った結果であった。
その他、保管場所について尋ねた結果では、スマホ本体 94%、パソコン35%、外部記憶 29%、クラウド19%で、
大半がスマートフォンに保存したままであった。ちなみに、
「スマートフォン内の写真の枚数」について尋ねた結果は、べき分布で中央値が 3,000枚。所属・学年による差はないが、性別では女性の中央値が有意に高いことがわかった(U=5914.0 , p<0.01)。
本調査では写真撮影の動機等を確認すべく、主な撮影対象(回答必須 対象259名)、また、なぜ撮るのか・なぜ見るのか・なぜ公開するのか(回答任意)といった事項について自由記述形式で尋ねた。結果をワードクラウドとともに報告する。
4.1. 撮影対象
自由記述(単語の列挙)から特徴的な単語を抽出した。
1) 回答全体
出現ワードについて同義語(例:友人と友達)をまとめた結果、撮影対象の主なものは、風景(121)、料理(99)、友人(91)、動物(68)、植物(43)、推し(36)、イベント(26)、家族(26)、自分(25)という結果であった(図1)。
2) 性別で差が現れる項目 性別に単語の出現数を比較したところ、男性特有のワードとして「建築・都市・自然・空・ファッション・スポーツ」、 女性特有のワードとして「推し・家族・料理」などが現れることがわかった。
3) 所属(専門性)において差が現れる項目
所属別に、単語の出現数を比較したところ、芸術表現学科では「自分(自撮り)」、写真・映像メディア学科では「都市」、ビジュアルデザイン学科では「料理・家族」、 生活環境デザイン学科では「イベント・建築」、そしてソーシャルデザイン学科 では、出現する単語が多岐にわたるなど、それぞれの専門性(関心事)が被写体として選択されるものの差異として現れることがわかった。
4.2. 写真の存在意義
写真の存在意義について自由記述での回答(任意)を求めた結果、カテゴリー間の差なく、「記録・記憶」がトップで、「趣味・表現・共有・癒し・娯楽・観察」などがそれに続いた(図2)。
4.3. なぜ写真を撮るのか
この問いに対する回答の筆頭は「写真の存在意義」に対する回答と同様で「思い出・記録・記憶」であったが、次いで「瞬間・自分・綺麗・保存・一瞬・感動」といったワードが登場する点が異なっていた(図3)。
4.4. なぜ写真を見るのか
回答は全体として「なぜ写真を撮るのか」と同様で、筆頭は同様に「思い出」で、次いで「自分」というワードの出現が目立ったが、元のデータを確認したところ、「自分の写真」、「自分の記憶」、「自分の知らない世界」といった文中のもので、被写体としての「自分」を意味する語ではなかった(図省略)。
4.5. なぜ写真を公開するのか
この問いに対する回答の筆頭は「共有」と「承認欲求」であった。「自分・人」というワードも多いが、これらは共有・承認欲求に関わる文中のものであった(図4)。なお、公開先については、ほぼ86%がInstagram等のサービスを利用している。
本調査は芸術学部の学生が対象で、若年層全体への一般化はできないが、20世紀との比較において、写真に対する女性の関心が男性を上回る勢いで増加したこと、またその公開と共有の可能性が広がったことは体感的にも違和感ないと言えよう。
オブジェクト指向(object-oriented)を考案したアラン・ケイは「道具の使い方を学ぶことが私たち自身を変えるという点に人間と道具の関係の本質がある」1)と言った。インターネット
とスマートフォン=カメラの使い方を学んだ現代人はどのように変化したのか。特筆すべきは、社会的所属や性別を超えて、すべての人が地球規模での「公開と共有」の機会を得たことであろう。かつて家族や友人間で共有すべく行われた「焼き増し」とは全く異なる状況だと言える。実際、「共有」という言葉は、
「情報共有」、「動画共有サイト」など、インターネットの普及とともに日常的になったもので、20世紀に執筆された写真論の目次に「共有」という文字は皆無である。
写真は「撮影の機会を得た人」の「知的収穫物」であり、20世紀の感覚では排他的に独占されるものであるが、実際はそうではない。撮影行為は「狩猟採集」に似ているのだ。狩猟採集社会では獲物は独占されることなくバンド集団が生き延びるためにシェアされる。スーザン・ソンタグは、カメラを銃に例えるとともに「写真を撮ることは世界を収集すること」だと言った2)。排他的所有を是とする現代に、共有(シェア)を前提
とした道具と環境が整ったことは、歓迎すべきことではないだろうか。写真は、人類の知的成熟に寄与する「獲物」であり、人類が種として生き延びるために「共有」される存在となったのだ。現代人はカメラによってコモンズを取り戻しつつある。
1) アラン・ケイ, 「ユーザーインターフェイス−個人的見解」, アジソン・ウェスレイ・
パブリッシャーズ,1994
2) スーザン・ソンタグ, 写真論, 晶文社, 1979