組織内の情報共有と業務の効率化を目指して
井 上 貢 一 / 九州産業大学芸術学部
Koichi Inoue / Kyushu Sangyo University
CMS(content management system) とは、テキストや画像など様々なデジタルコンテンツをWeb上で効率的に管理するシステムの総称です。IT系企業の多くがこれを活用した社内の情報共有を進めていますが、一方で技術基盤を持たない地域社会や小規模の組織では今だに会議とメールが中心で、組織の業務効率に大きな差がついているのが現状です。
筆者は、所属する学内組織や地域の団体等にこれを実験的に導入し、一般の方でも直感的に管理・更新ができるようなシステムの最適化を図る研究を行っており、本発表では、その取り組みの導入段階として行った Web上の調査と過去の知見をまとめ、その導入に向けた提言を行います。
組織における情報共有の目的は、一般に以下を実現することにあります。
今日では、チャット、社内SNS、掲示板、施設予約管理、スケジュール管理、プロジェクト管理、ファイル共有といったキーワードとともに、様々なツールやサービスの開発が進んでおり、いずれもWebブラウザからアクセスするCMSの利用が主流になっています。
そこでこれらに関する社会の関心事を把握すべく、Googleサジェストのキーワード一括ダウンロードツールを用いて、検索キーワード「情報共有」からサジェストされる関連用語を調べました(Web調査:福岡 2019.07.31)。
次に、「組織 + 情報共有」の検索でヒットする「オススメ・・◯◯選」と題した Web記事の上位 20件を調査し 、そこに紹介されたツールやサービスを洗い出すとともに、当該事項に関する Web上での記事数を調べました(Web調査:2019.08.01-08)。
調査の結果確認できたことは、それらの多くが CMS の一種であり、ユーザは Webブラウザからこれらを利用するという点です。また、これらは大きく以下の 3つのタイプに分類できることがわかりました。
Chatwork, LINE, WORKS, Slack など、組織内SNSツールの導入が進んでいる。結果、メールの利用は減っている。
Confluence, Crowi, keleba, Qiita:Team など、Wikiベースのシステムの他、DokuWiki, MediaWiki, PukiWiki な ど の Wiki そのものの活用も進んでいる。その他大半の製品が独自の Wikiを内包している。
Box, Dropbox, GoogleDrive 等、ファイルはサーバーに置いてブラウザから共同編集する使い方が一般的になっている。OSS 開発で著名な GitHubも総合的な情報共有システムとして機能している。
本調査における様々な記事から見えてきたことは、Wikiが情報共有システムのコアに存在するという点です。
例えば、Yahoo! Japan では、2002年頃から、法務部、広報部などの非技術系部署が会社全般の問題に取り組むために、情報管理ツールとしてCMSの活用を始め、2006年には ConfluenceというエンタープライズWikiを導入し、社内のほぼすべての情報を集約しています。現在、新入社員が最初に覚えるのは「Confluenceの使い方」・・とのこと。
また例えばメルカリでは、かつて複数のWikiでバラバラに管理していた情報を 2016年に Crowi に集約しています。社内に各部署から10名のキーマンを指名、各分野で運用を進めたことにより、Wiki の活用が習慣化され、現在では社内のほぼすべての情報が格納されている・・とのこと。。
以下、Wiki システムの導入に関する知見を列挙します。
また「利用者のためのガイド」として、以下の準備が必要です。
最終的には組織のメンバー全員が Wiki に積極参加せざるを得なくするよう、社内の壁面掲示やメール等の旧メディアの利用を非推奨とし、Wiki を「窓口」とすべ く誘導を継続することが重要です。
Wiki Design Principles by Ward Cunningham
- シンプル(Simple) - 開放(Open) - 漸進的であること(Incremental) - 有機的であること(Organic) - 平易であること(Mundane) - 普遍的であること(Universal) - 明白であること(Overt) - 一元的であること(Unified) - 的確であること(Pricese) - 寛容であること(Tolerant) - 観察可能であること(Observable) - 収束すること(Convergent) - 信用(Trust) - 楽しい(Fun) - 共有(Sharing) - インタラクション(Interaction) - コラボレーション(Collaboration) - プラットフォーム(Platforms) - ソーシャルネットワーク(Social Networks)
この原理の背景にあるのは、C.アレグザンダーの「利用者参加による建築のための6つの原理」、またそのキーワードであるパターン・ランゲージがあると言われます*2。
パターンが具体的なコンテンツを生み出し、そのコンテンツがパターンのあり方を調整していく。それは UNIXプログラマーの世界における「オブジェクト指向プログラミング」、「デザイン・パターン」にも通じるもので、そのような創造のスパイラルが自然にできること、言い方を変えれば、自律分散協調的に自己組織化する仕組みこそがサスティナブルな情報デザインの原理であると考えられます。
- ひとつのことをうまくやる - 小さな部品の集合として大きなものをつくる
UNIXの設計思想 Mike Gancarz
参考イメージ:Bait Ball
C. アレグザンダー流に言えば、組織は「ツリー」構造のものと「セミラティス」構造のものとに分けて考えることができます。
トップの視点で全体を分類 する「ツリー」は、官僚、警察、軍隊といったクローズドな組織には通用するかもしれませんが、 開かれた地域社会や、メンバーが複数のプロジェクトに重複関与するオープンな組織には通用せず、 同様にそれらが持つ情報もツリー状には整理できません。
Wiki は複数のメンバーが「ページ」を単位として相互リンクする自律分散協調系であり、それはまさにセミラティスの構造を持っています。ソーシャルデザインがオープンな思想を前提 とするのであれば、Wiki は組織の情報共有にとって最も適性の高いシステムだと言えるでしょう。