映像編集についての覚書
文法はありませんが、一応セオリーらしきものはあります。・・
映像制作を経験すると、誰もが感じることがあります。
「なぜ自分のつくった映像は素人っぽいのか?プロのつくったものとの印象のちがい
はどこからくるのか?」ということです。
映像制作には絶対的な原則はありません。ですが、我々が映画やテレビドラマで目にする大半の「物語映像」は、視聴者にわかりやすく伝えるための一定の約束
事にしたがって、撮影・編集が行われています。プロのつくった映像とアマチュアのつくった映像の違いの大半はここで生じています。
このページでは、、映像が自然にわかりやすく「つながって見える」ための撮影・編集の原則について、認知科学の知見も交えながらお話します。
ここに記載の内容は、あくまでも物語映像制作のための一 般的なセオリーです。ミュージックビデオやモーショングラフィックス、実験的 な映像の制作を考えている方は参考程度とお考え下さい。
映像制作へのアドバイス1 「空間構造を伝える配慮」
サザエさんの家の間取りが想像できますか?おそらくほとんどの人がなんとなくわかるのではないかと思います。平面図を見たわけでもない のになんとな く位置関係がわかるのは、個々の映像断片と、それらをつなぐ人物の移動方向が、視聴者の頭の中に架空の間取りを形成するからです。
しかし、これは送り手が、うまく考えて編集しないと、スムーズには形成されません。一般に素人の作品には、この部分への配慮がないために、見る人が空間構 造を理解できずに、「結局どういう状況なのかよくわからない」ということになってしまうのです。シーン冒頭にエスタブリッシングショット(被写体の位置関係がわかるような引きの絵)をいれたり、人物の位置関係が混乱しないように180& amp; deg;ルール(後述)を守るなど、ショットの編集について基本的な技術を知ることが必要になります。
作り手の頭の中にある世界の構造(空間スキーマ)は、見る側の頭の中にはありません。撮影しているあなたは、個々の被写体の位置関係を知っているけれど、
視聴者はそれをまったく知らないのです。視聴者の頭の中に形成されるのは現実の空間構造ではなく、個々のショットから想像的につくりだされる架空の空間構
造であるということをしっかりと認識しておきましょう。
撮影現場を知っていると、その知識が、架空の空間世界の編集の妨げになる場合があります。そういう理由もあって、編集者は撮影現場には立ち会わないという ケースも多くあります。 (「現場の苦労を知ってしまうと、フィルムを捨てられなくなるから」という理由もありますが・・)
映像制作へのアドバイス2 「疑問を持たせる」
ストーリー性のある作品を作っている方、見ている人に「その先が見たい」と思わせる絵作りをしてください。なんとなくつないでも、見る
人には面白くありま
せん。あーして、こーして、つぎにこーなって、という事実の羅列では、それがどんなにイイ内容でも視聴者は飽きてしまいます。「疑問を持たせて・答えを出
す」、「アクションに対するリアクションを見せる」、そしてその繰り返し(いわゆるチェーンリアクション)でつなぐのが基本です。
-「人物のまなざし(何を見ているの?)」→「視線の対象(答え)」
-「拳銃のアップ(狙われているのは誰?)」→「ターゲット(答え)」
-「自転車が走ってきてフレームアウト(どこへ行くのだろう?)」→「次の場面に自転車がフレームイン(答え)」
-「投げる(どうなる?)」→「打つ」
-「時計のアップ(何が起こる?)」→「列車の到着」
そして、たまに「はっと振り向いた(誰?)」→「誰もいない」といった肩すかしも含めることで、流れに緊張感を持たせることもできま
す。
話は変わりますが、例えば、「豆腐の上に朝顔の種を蒔いて1週間・・・さて芽は出たんでしょうか?」という、非常にくだらない問題でも、答えが出るまでは
視聴者をひきつけておくことができます。バラエティー番組などを冷静に見てみて下さい。ほとんどどーでもいいような「疑問」が視聴者をひきつけているとい
うことに気づくはずです。視聴者が映像(ストーリー)に注目しつづけるかどうかは、そんな「疑問」の有無にかかっているのです。
人間の脳は、内容の価値に関わらず疑問に対する答えが提示される瞬間に快感を感じます。だからバラエティー番組制作の可能性も無限に広がるのであって、結
果として、人はどーでもいいような知識をたくさん持つことになるのです。知識が必要だったのではなく、「疑問が解決したときの快感」、逆に言えば、「疑問
が解決しないことの不快感」が、人の行動を左右していると言えなくもありません。
「あの棚の上のヘンな物は何だ?」というたった一つの台詞でも、主人公がその答えを見出すまでのプロセスで物語作品を1本つくることができます。そう考え
れば、作品づくりのネタは無限にあることに気づくでしょう。
「失くしたものを探しに旅にでる」というタイプの、「欠損」に起因するモチベーションを利用する物語も同様の発想で考えることができます。
※ちなみに豆腐の上の朝顔の種、結果は「カビが生えておわり」だったと記憶しています。
映像制作へのアドバイス3 「不要と思えば思い切って捨てる」
これは映像制作に限らず、すべての作品づくりに共通のことですが、たとえ金と時間をかけたショットでも、それが物語りのフォーカスをぼ
かしてしまう、ある
いは見る人を混乱させるような場合は、思い切って捨てることが必要です。
せっかく撮った(作った)素材、せっかく覚えた技術、あれも・これも使いたい、と思う気持ちはよくわかりますが、最終的にそれが作品を生かすか殺すかをよ
く考えて下さい。卒業制作でつくるような短編の作品の場合は、特に「作品のまとまり」を意識する必要があります。作っている本人にとっては1年間飽きるほ
ど見つづけた映像でも、作品を見る人には数分の出来事です。ちょっと変化が欲しかったという作者の遊びが、見る人には混乱のもとになってしまうことも多い
のです。
デザイン学 科の卒業制作ですから「見る人(ユーザ)の視点で考え る」ことを優先させて下さい。
映像制作へのアドバイス4 「音声・音楽について」
映像は切ってつないでも大丈夫ですが、音声・音楽は勝手に切ってつなぐわけにはいきません。つまり音声・音楽は映像作品にとってかなり
拘束力のある
存在なのです。後から適当に音をつけるという発想もあるようですが、一つの楽曲に合わせることが前提であれば、まず全体の尺を音楽合わせること、そして曲
のリズム
と映像の動き・編集のタイミングを(シンクロする場合もあえてはずす場合も)調整することが必要です。楽曲の選択を後回しにしないようにしましょう。
映像制作へのアドバイス5 「動きについて」
ア
ニメーション作品で「動き」のスピードを思い通りに制御したい場合は、実際に自分の手足や物体の動きをビデオカメラで撮影して、そのデータをシーンづくり
の背景にテン
プレートとして配置するなどして調整してみると良いでしょう。フィルムの実写映像を下敷きにしてキーフレームをつくっていくという方法は昔からよく用いら
れる方法で
す。ディズニーアニメのように音楽にあわせてアクションさせる場合も、まず音楽にあわせて自分で踊ってみましょう。それをビデオに撮ってテンプレートにす
れば、音にぴったりと合うアニメが作れます。
「現実にはない動き」が狙いである場合も同じ。「現実にはない動き」をつくるには、まずは現実の動きを知ることが必要です。
映像制作へのアドバイス6 「オープニングとエンディングについて」
はじめの部分では、「これから始まる」という緊張感、そして終わりの部分では、「これで終った」という安定感(終止感)を演出すること
が重要です。
特に、終止感は非常に重要です。「終った」感じが得られないと、記憶にも残りません。何らかの「疑問」に始まり、その「答え」で終るというのが基本です
が、例えば、作品の冒頭のシーン(あるいはそれと対称の関係になるシーン)を最後にもう一度もってくるということでも、「一周した」という意味での終止感
は得られます。特にストーリーのない作品では、この方法は有効です。
一般に、非対称は緊張、対称は安定した構図になりますので、例えば、はじめのタイトルは画面中央をはずして表示、エンドロールは画面中央に左右対称(中央
揃え)で表示、といったことでも、それらしく見せることが可能です。
ショットとショットの接続
ショットとショットの接続は、視聴者の意識に「見えるもの以上の意味」を生み出します。例えば「人物の視線→事 物」の順に構成すると、「人物が事物を見た」あるいはさらに「人物が事物を欲しがっている」など、実際には「人物の顔」と「事物」しか映し出されていない にも関わらず、見る人の意識にはそれ以上の関連づけが生じるのです。ショットをつなぐ場合には、それが「見る人にどう見えるか」を考えながらつなぐ必要が あります。ショットが「つながって見える」には、以下の3つのレベルの問題へ配慮が必要です。
1.感覚レベル
大前提として画質が一致していることが必要です。
フィルムで撮ったものとビデオで撮ったものとでは明らかに違和感があります。
又例えば、暗いからといって特定のショットだけゲイン調整を行ったりすると、
やはり違和感が生じてスムーズな映像の認知を妨げます。
2.知覚レベル
2.1.空間的な情報の一致
・被写体の視線方向、立ち位置、
衣装その他の視覚情報の一致
・照明条件の一致
・カメラの撮影パラメータの工夫
2.2.時間的な情報の連続
・被写体の動きの連続
・照明の動きの連続
・カメラの動きの連続
・音声情報の連続
3.認知レベル
3.1.視聴者の知識ベースに依存した接続
「男→女」、「赤信号→停止する車」
3.2.先行情報の文脈効果に依存した接続
「オープニングでの登場人物の紹介」
「エスタブリッシング・ショット」
3.3.アクションとリアクションによる接続
「人物の視線→見られた対象」
「照らす→照らされる対象」
「投げる→打つ」
「電話のベル→受話器をとる人物」
認知レベルの接続は「小説の書き方」にも通じます。「少女は見上げた。空には白い雲」と書けば、「少女が白い雲を見た」と解釈されます。
一
方知覚レベルの接続の問題は「小説」では問題にならない映像特有のものです。例えば、2人の会話で、「どちらが右にいるか」や「何色の服を着ているか」は
小説では問題になりませんが、映像では「一致」させる必要があります。分割して撮影して後でつなぐ場合、「映っているもの」を写真に撮って記録しておくと
よいでしょう。
シーンとシーンの接続
シーンは混乱しないように明確に分離する必要があります。視聴者から見れば、シーンには、 昼/夜 そして 屋外/室内 といった大まかな区別しかあ りません。
したがって、昼の室内から昼の別の室内へとシーンを変えるような場合、視聴者が混乱しないよう工夫する必要があります。
シーンとシーンは基本的に時間と場所が異なるので、様々なつなぎ方が可能です。
1.フェードイン・アウトなどの利用
2.「類似」や「因果関係」で関連づける
2.1.同様なグラフィックでつなぐ
「青い花に蝶」→「海原にヨット」
2.2.同様な動きでつなぐ
「ブランコ」→「時計の振り子」
2.3.擬似的な因果関係をつくる
「ボールを投げる」→「物が飛んで来る」
3.様々な「ブリッジ」を用いる
空抜け、リヴィールフレーム、
小道具のアップ等
4.並行編集による複数シーンの同時進行
一般的な場面転換とは異なりますが、同時に起こる2つのシーンを交互に繰り出すもので、各シーンの時間省略にも有効です。
その他
ショットとシーン
ショット(shot)とは、テープがまわりはじめてから止まるまでの連続した映像のことです。
1秒2秒の短いものから数分に及ぶものまでありますが、通常のテレビ番組では、
平均すると7から8秒程度です。
シーン(scene)とは、複数のショットから成る「空間的にも時間的にも(ほぼ)連続した」
ひとつの場面です。
モンタージュ
ショットとショットをつないでいくことを「モンタージュ」と言いますが、ハリウッドスタイルのモンタージュでは「視聴者が見たいと思うものにつなぐ」のが
原則です。例えば、人物の視線を映し出した場合は、その視線の先にあるものにつなぐというのが基本です。
※このあたりは書きかけです。
カメラワーク
映像の動きには大きく2つあります。ひとつは被写体の動き、もうひとつはカメラの動きで、カメラの動きには、フォーカス送りやズームといったレンズの動
き、カメラを回転させるパン・ティルト、さらにカメラの位置自体が移動するドリーやクレーンもあります。
切り替えのタイミング フレーム内の位置
歩 いていく人物の撮影などでは、完全にフレームアウトする前にカメラを切り換えます。
また、別の方法としては、先行ショットで完全にフレームアウ
トしたあと「空舞台」をしばらく見せ、後続ショットも「空舞台」からはじめてフレームインするというパターンや、先行ショットを突然カットして後続を「空
舞台」からはじめるパターン(上図右)もあります。いずれにせよ新しい場面が「板付き」ではじまることはまれです。
切り替えのタイミング 動き
動いていない対象に対して、カメラを切り換えるとショックを感じますが、アクションの途中のカメラの切り換えは、スムーズなものになり ます。
※このあたりは書きかけで す。
| PAGE TOP |編集稽古
典型的な編集の練習テーマです。1分程度のショートフィルムで練習してみて下さい。
「それらしくつくる」のは意外に難しい・・ということがわかると思います。
テーマ1 ツーショット
2人の人物の会話を撮影・編集することががテーマです。2人が「解けない謎」について会話しているところへ、第三の人物が登場して、「謎」を解決します。
テーマ2 キャッチボール
2人の人物が、声をかけあいながらキャッチボールをしているシーンを撮影・編集することがテーマです。最後に、取り損なって転がった ボールを第三の人物が拾い上げるところで「つづく」として終了します。
テーマ3 追っかけ
「12:00の電車で東京へ行きます。」のメールを見て、あわてて自転車で追いかけます。ようやく駅のホームにたどりつくと、電車はちょうど出たところで
した。・・(その後はおまかせします。)
演習の要点
1.ショットの接続
・「見る→見られる」や「投げた→打った」など、
疑問と謎解き、アクションとリアクションの関係でつなぐ
・注目度の高い「動き」を利用してつなぐ
2.前後のショットの関係
・同ポジ同サイズはつながない
・照明条件を一致させる
3.冒頭部分の工夫
・「問題・謎」を提起する。これがないと、視聴者は「その先が見たい」と感じません。
・場所と時刻を映像で説明する。これは視聴者の「読み」の手がかりとなります。
4.最後の「終止感」
・「謎の解決」で終止感を与える。
・「緊張→安定」の印象を与える。
・「冒頭のシーン」に戻って「一周した」印象を与える。
5.音の効果的利用
・ショットとは独立にサウンドを連続使用
・音と映像とをスタッガーに構成
6.映像世界の構築
・「見る」と「見られたもの」は別の場所の撮影てもつなげることが可能です。
・「ドアを開けて入る」場合、送り側ショットの撮影と受け側のショットの撮影は、別の場所でもつなげることが可能です。
・「階段を上る」ショットに続けて「1階の窓から飛び出す」ショットをつなぐと、「高い階から飛び降りた」ように見せることが可能です。
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