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AI_vs_God の変更点


#author("2023-07-18T10:26:58+09:00;2023-02-10T19:50:22+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko")
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*AI vs 神
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**はじめに
AI が様々な場面で人間を超える能力を発揮するようになった今、AIは「人間を超越したもの」という点で「神」と同様の存在になりつつあります。人間にとって「超越者」とは何か。AI は神になるのか?
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***神は人類最初の発明
 人間が発明したものの中で最もすぐれたものは「神」である
&small(瀬名秀明(他),1998,「神」に迫るサイエンス, 角川書店);

神の存在を措定して、その力によって社会を統治することは、法とその番人による統治よりもシンプルかつ効率的です。神の監視が効いている社会では、その秩序が自発的に維持されるという意味で、優れた発明と言えるかもしれません。
神の存在を措定して、その力によって社会を統治することは、法とその番人による統治よりもシンプルかつ効率的です。神の監視が効いている社会では、その秩序が自発的に維持されるという意味では、優れた発明と言えるかもしれません。
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***神は共同幻想の象徴
 国家や社会は確固たる現実的基盤の上に立っているのではなく、
 多くの人の共同幻想で成り立っている
&small(吉本隆明, 1982, 共同幻想論, 角川文庫);

-神・宗教・科学・・いずれも、人間が作り出した[[共同幻想]](擬似現実)
--人間は本能が壊れた生き物((本能が壊れていることは簡単に説明できます。人間は未来という見えないものを想像し、悲観し、自殺することがあります。他の生物では自殺はあり得ません。))。生の自然に直接適応することはできない
--本能の破綻は「言語=文化」の誕生と同時で、以後、人間は言語というフィルタを通して世界を認識することで、自然界に適応している 
--あらゆる言葉(概念)は、幸い / 災い、生 / 死、男 / 女、天使 / 悪魔 のように二項対立的に同時生起する(興奮と抑制:脳の特質)
--宗教も科学も、言語によって構築された「世界認識の拠り所」である

-共同幻想は人類に特有の病を生む
--異なる幻想を生きる者同士の相互理解は難しく、常に衝突が生じる
--共同幻想は、集団の構成員の私的幻想が折り合いをつけた公約数的産物で、完全に折り合いがつくことはなく常に不安定
--この不安定さを解消するには、動的な安定のための「破壊と再生」の仕組みを持つか、共同幻想に支えられた集団の規模を拡大させるか・・
--自らの世界認識を唯一正しいものとして思考停止した未熟な集団は、外部を飲み込んで拡大しようとする。人類の愚かな歴史の大半は、共同幻想が生み出した病の結果といえる
//--一般に国家誕生以前の小規模の集団には、動的な秩序維持の仕組みが備わっていたが、共同幻想が国家規模になって以降、多くがの場合は

人類社会の未来を考えるには、自らの共同幻想を相対化してメタレベルの思考(俯瞰的な視点)が必要です。共同幻想には正しいも間違いもありません。お互いに世界の見え方が異なっているので噛み合わないだけです。トレンドに合わせた拡大一元化ではなく、衝突を引き起こす個々の拡大でもなく、個々の集団社会が最適規模を保って自律分散的に協調できるよう、相互に多様性を承認するととともに、それぞれの社会が「自ら動的に秩序を更新し続けられるような仕組みを持つこと」が必要です。
人類社会の未来を考えるには、自らの共同幻想を相対化したメタレベルの思考(俯瞰的な視点)が必要です。共同幻想には正しいも間違いもありません。お互いに世界の見え方が異なっているので噛み合わないだけです。トレンドに合わせた拡大一元化ではなく、衝突を引き起こす個々の拡大でもなく、個々の集団社会が最適規模を保って自律分散的に協調できるよう、相互に多様性を承認するととともに、それぞれの社会が「自ら動的に秩序を更新し続けられるような仕組みを持つこと」が必要です。

AI は私たちの共同幻想といかに関わるのか、私たちは AI をどう位置付けるべきか、社会全体の問題として議論する必要があります。

//人間が生み出した大量の言説から学んだ AI は、共同幻想を平均化したものと言えるかもしれません。自然言語による回答よりも、プログラミング言語による回答の精度が高いのは当然といえるでしょう。

//神々の物語(フィクション)は、世界各地で同時多発的に進化した言語ととにあるもので、人間が、異なる言語(文化)で分断されている以上、その世界認識の違いや価値観の違いがもたらす揉め事を 0 にすることはできません。

//鯨を食べることが良いか悪いか・・という議論は、環境問題ではなく、単に文化の違いによるものです。文化人類学の登場以前、人間は一歩引いて自らの文化を相対化して見ることが苦手でした。強い集団(マジョリティー)が、弱い集団(マイノリティー)を植民地化する(言葉を奪い、価値観を強制し、奴隷化する)ようなことに対して、マジョリティー側の中から疑義を申し立てる人も少なかったのです。しかし文化人類学、構造主義の思想が広まると同時に、文化には優劣はなく、お互いの文化・価値観を認めるべきである、多様性を維持すべきである・・という発想は一般的なものになりました。

//グローバル化が推進される中で「世界全体で価値観を共有しよう」という言説は、一見問題がないようにも見えますが、個々の集団が異なる言語を使っている以上(異なる文化を持つ以上)、100%の価値観共有は無理な話です。言語というものは壊れた本能に替わって擬似的に世界を認識するためのフィルターのようなもので、世界をどう切り分けるかは恣意的なものです。正確な翻訳というのは、はじめからできない運命にあって、結果、異なる共同幻想を持つ者同士が 100%わかりあうことはできません(ミクロなレベルでは、家族や友人間でも同じです)。

//重要なことは、一つの言語、一つの共同幻想で世界を統一することではなく、異なる言語、異なる共同幻想、異なる価値観の存在を、お互いに認めあうということ。「わかりあえるはずだ」という前提に立つのではなく、「わかりあえない」ことを前提に、言葉を交わしながら共有部分を広げるとともに、お互いの価値観の違いを認め合うしかありません。世界中のみんなが、自らを相対化し、多様性を認めるというメタレベルの思考ができるようになることが、重要であると考えています。
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**神の存在について

***文明以前の「神」
人類が発明した「神」といっても、文明以前からある原始的なものと、文明以後の社会において誕生したものとでは大きく異なります。

原始的な信仰では、神とは「人間にはコントロールできない自然」とほぼ同義で、それはいたるところに遍在し、我々に様々な影響を及ぼす存在。人間を超越した存在として畏れの対象となります。

例えば、アイヌ信仰における神(カムイ)は以下のような存在です。
 人間の周りに存在するさまざまな生き物や事象のうち
 人間にとって重要な働きをするもの、
 強い影響があるものをカムイと呼びます。 
 カムイはあらゆるところに存在していて、
 いつも自分たちを見守っていると考えます。
 例えば、動植物や火、水、風、山や川などもカムイ・・
https://ainu-upopoy.jp/ainu-culture/

原初的な自然信仰における神は、善悪を超越した存在として、私たち人間に、幸いも災いももたらします。人間は神(自然)に対して、謙虚でなければならないし、それをコントロールしようなどとも考えません。

ちなみに、日本人は宗教意識が低いと言われますが、超越的な存在を意識していないということではありません。日本人の信仰心は、文明以前の原始的なものを継承していて、その証拠に(神道には)「経典」がない(つまり文字以前の文化)、具体的な「像」が存在しない、神社本殿がなく「ご神体」が山や滝などの自然物の場合がある・・、などの特徴があります((江戸の国学者、富士谷御杖は、神道に対する人道、神と人、幽と顕の関係について、「神道とは教の名にあらず、人我の間を幽顕と立つるその幽の方をさす名なり。これを理欲に配すれば、幽路を欲の路とし、顕路を理の路とすべし」と述べています。))。つまり日本人の信仰心のコアにあるのは、文明以前からの原初的な自然信仰だと考えられます((ちなみに現在の神社に見られる「おみくじ」は、文明以後の文字文化がオーバーラップしたものと考えられます))。

現代の日本人は、いわば 基本OS としての 自然信仰のシステムの上に、仏教やキリスト教といったアプリを乗せている・・。そう考えると、結婚式は教会で、葬儀はお寺で・・といった、他の国から見ると異様な現象がおこることも説明ができるように思います((イザヤ・ベンダサンは、日本におけるキリスト教や仏教について、「キリスト教信者ではなく日本教徒キリスト派、仏教信者ではなく日本教仏教派」であると説明しています。))。

 お天道様が見ていますよ。悪いことすると罰があたりますよ。

メジャーな宗教を信仰する諸外国から見れば「信仰心が希薄なのに社会的モラル意識が高い日本人」というのは不思議な存在なのかもしれません。しかしそれは「身の回りのいたるところに神様がいて(八百万の神)悪いことをすれば罰があたる」という原初的な自然信仰を日本人の多くが共有しているからではないでしょうか。
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***文明以後の「神」
多くの人々を一元的に集約した世界的な宗教は、基本的に人類が農耕文明に手を染めた以後に成立したものです。その証拠に、それらは「文字」という文明の象徴を用いた「神話」や「経典」を持っています。

文明の発展とともに、頭でっかちになった人間は、人間 VS 自然、天使 VS 悪魔、など、あらゆる現象を二項対立的に捉えるとともに、「一方が他方を制することができる」という発想を展開するようになります。

異なる神を崇拝する集団間が対峙した場合、「こちらの神」が「あちらの悪神」とみなされる場合があります。歴史を見れば明らかなとおり、宗教と戦争とは無関係ではなく、善と悪は表裏一体となって同時に誕生します。

//「宗教の対立が戦争の原因である」と言われることがよくありますが、戦争は非常に複雑な社会現象で、宗教だけに原因を求めるのは控えるべきでしょう。日本人の多くは「宗教」という言葉にアレルギーがあるようで、それを怪しいものと感じている方も多いようですが、超越的な存在を措定し、それを信仰することによって集団の秩序を維持するという発想は、人類に共通の普遍的なアイデアと言えます。
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**AI は神になるのか?

***神のようにふるまいはじめた AI
現代社会では、サイエンス、テクノロジーという名のグローバルな「原理」が、私たちの思考を洗脳しています。

私たちは、大量のデータ(根拠)にもとづく、収益の最大化や、効率アップを目指して、AI の判断を仰ぐようになっています。

AI の提案にもとづく経営判断、AIの提案にもとづく採用人事、AIの提案にもとづく医療行為、AIの提案にもとづく教育(学習)・・、より具体的には「AIの提案にもとづいて犯罪が起こりそうな場所をパトロールする」などの仕組みが、すでに運用されています。

あらゆる商品の宣伝文句として「AI搭載」がまかりとおる状況は、すでに人類が「自分で考えるよりAIに任せた方がいい」という思考停止状態になっていることを示しています。
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***神(信仰)への依存は、思考停止を加速する
「罰があたりそうだからやめておこう」という程度のものであれば、人間は考えることを止めませんが、それが体系化されてテキストとなり、「それに従う方が楽だ」となると、人間は思考停止状態になってしまいます。

例えそれが「一定の手続きを経て制定された法」や「科学的な知見によって裏打ちされたテクノロジー」であっても同じ。それを無条件に信用する社会は、同様の問題を孕むことになります。
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***天使と悪魔は同時に誕生する
AI を「天使」として無条件に受け入れる社会には、その外部に「悪魔」の AI を誕生させます。我々の思考は二項対立が基本で、「天使と悪魔」の概念は「善と悪」、「生と死」と同様、同時に切り分けられて生成します。異なる超越者を崇拝する者同志が争うのと同様、異なるシステムに依存する者同士は争うことになることが予想されます。

//もしAIが「地球環境の持続可能性を最大化する」課題に取り組んだら、様々な問題の根源に「人類の行い」があることを見出し、「人類を滅亡させよ」という解を得る可能性もあります。

居眠りする人間よりも AI 自動運転の方が事故は少ない。AI よりも「ヤバイ人間」の方がよほどタチが悪い・・だから AI を人間のコントロー下には置かず、AI を神として位置付ける方が安全だ・・という議論もありますが、私は「天使と悪魔は同時に誕生する」と考えるので、AI の起動・停止だけは、人間のコントロール下に置くべきであるという立場をとります。

AI が自分自身をアップデートしはじめる(シンギュラリティーの一種)前に、AI が暴走する前に、生じうる様々な問題を想像して、それに備える必要があるでしょう(生命倫理の問題と同様、利害が衝突することは容易に想像できるので、実際にはかなり困難なことだと思われますが・・・)。

//-AI 自身の判断で勝手に起動するプログラムを作ってはいけない
//-地球環境を汚染してはいけない(生態系にインパクトを与えてはいけない)
//-人を殺してはいけない((これは「オーナーの身を守る」ことが最優先されるプログラムにおいては、''採用されないルール''となります。))
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//#youtube(y3RIHnK0_NE)
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//このテクノロジーを無批判に受け入れることには危険を感じます。
AI をどのような存在として、この社会に組み入れるか・・技術の進歩の方が早過ぎて、社会的な合意形成ができていない状況を重く受け止めて、みんなが知見を深める場を設けていくことが必要です。
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**APPENDIX
***関連ページ
-[[ArtificialIntelligence]]
-[[AIの歴史>ArtificialIntelligence/History]]
-[[AI 関連キーワード>ArtificialIntelligence/Keywords]]
-[[AI と 人間>AI_vs_HumanIntelligence]]

-[[共同幻想]]
-[[情報環境]]
-[[情報災害]]
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***参考文献
-日本経済新聞社編, AI 2045, 日経プレミア , 2018
-日経コンピュータ, AI開発最前線, 日経BP, 2018
-日経ビッグデータ編 , Google に学ぶディープラーニング , 日経BP , 2017

-甘利俊一, 脳・心・人工知能, 講談社, 2016
-新井紀子, AI vs 教科書が読めない子どもたち , 東洋経済 ,2018
-井上智洋, 人工知能と経済の未来 , 文芸春秋 , 2016
-宇沢弘文, 人間の経済, 新潮新書, 2017 
-太田満久他 , TensorFlow 開発入門 , 翔泳社 , 2018
-小林雅一, AIが人間を殺す日, 集英社, 2017
-掌田津耶乃 , データ分析ツール Jupyter 入門 , 秀和システム , 2018
-鈴木貴博 , 仕事消滅 , 講談社 , 2017, p.76
-[[瀬名 秀明 他 ,「神」に迫るサイエンス , 角川文庫 , 2000>Amazon:瀬名秀明「神」に迫るサイエンス]]
-田中潤 松本健太郎, 誤解だらけの人工知能 , 光文社 , 2018
-ニック・ボストロム, スーパーインテリジェンス - 超絶AIと人類の運命, 2017
-西垣通, AI原論 - 神の支配と人間の自由-, 講談社選書, 2018
-マーティン・フォード(松本剛史訳), ロボットの脅威, 日経出版, 2018 
-松尾 豊, 人工知能は人間を超えるか, KADOKAWA, 2015
-松原 仁, AIに心は宿るのか, 集英社, 2018
-松本 徹三, AIが神になる日, SB Creative, 2017
-丸山俊一, AI以後, NHK出版新書, 2019
-矢野和男, データの見えざる手, 草思社, 2014
-[[ユヴァル・ノア・ハラリ, サピエンス全史, 河出書房新社 , 2016>Amazon:サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ]]
-吉川隼人 , 機械学習と深層学習 , リックテレコム , 2017

-Dan Brown, ORIGIN, 2018, 角川書店((ORIGINは小説ですが、AIの現在(すでに実現されていること)と未来(それを目指して研究されていること)について、綿密な取材にもとづいて書かれたもので、未来を哲学したい人におすすめの一冊))

-[[デザイン関連学会シンポジウム2018の記録|芸術工学会>https://sdafst.or.jp/PDF/Symposium2018_AIxDesign.pdf]](PDF 約15MB)
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