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Story の変更点


#author("2021-09-28T22:05:14+09:00;2021-09-28T22:03:31+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko")
#author("2023-12-23T15:36:47+09:00;2021-09-28T22:05:14+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko")
*物語
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人はなぜ、物語をつくるのか。映画、アニメ、漫画、絵本…多くのビジュアルコンテンツは「物語」の存在を基礎として成立しています。ここでは、それを空間や時間、登場人物、そしてその構造といった観点から考察してみます。

 物語(口承文学)は、音楽・絵画とともに太古の昔から存在する
 物語の起源は、人類の定住(あるいは農耕)、タブーの起源とともにある
 物語は、人間の世界に「内と外」「生と死」「俗と聖」があることを教える
 物語は、俗なる時間に溜め込んだ富を聖なる時間に蕩尽する快楽を教える
 結果、物語は「秩序の組み換えのプロセス」を綴ったものとなる
 物語とは、本能が破綻した人類に共通の病である


&scale(80){'''すべての社会システムは、同一状態にとどまらないように構造化されている''' レヴィ=ストロース};
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**物語の基本構造

***視聴者・読者を魅きつける契機
-欠如をつくる:何かが「足りない」状況が物語を起動する。
--参考:[[ぼくを探しに>Google: ぼくを探しに]]

-疑問を提示する:闇、死体、異質なもの、矢印、視線・・・
サスペンスとは、もともと Suspended(緊張状態)を意味する言葉です。 

-タブー(禁忌)を設定する:見てはいけない、入ってはいけない・・
--参考:[[見るなの座敷>Google:見るなの座敷]] 
--参考:[[異類婚姻譚>Google:異類婚姻譚]] / [[関敬吾「日本昔話集成」>Google: 関敬吾 日本昔話集成]]
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***空間の設定
-光と闇、秩序と混沌、大通りと路地裏・・
以下の2つのイメージを比較してみましょう
[[路地>GoogleImage:路地]]  / [[造成地>GoogleImage:造成地]]
整地された闇のない空間からは、物語は生まれそうにありません。物語が生まれるためには、空間の設定に「コントラスト」が必要です。
//余談ですが・・[[Google:神社の数 コンビニの数]]

-記号論的な観点から
町と森、町と村、庭と裏庭、上の階と下の階・・・。「場所」は差異化され、関係づけられることで「意味」を担うようになります。

-妖怪の出る場所
妖怪は、空間的な境界領域(辻、河原、橋の下・・)に出現します。
--参考:妖怪と幽霊の違い > 場所に出る妖怪 / 人に憑く幽霊
[[柳田国男「妖怪談義」>Google:柳田国男 妖怪談義]]
&size(12){[[GoogleImage:妖怪]]}; &size(12){[[GoogleImage:幽霊]] ←少し怖いので覚悟して…};
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***時間の設定
-過去と現在、未来と現在をつなぐ

-妖怪の出る時間
妖怪は、時間的な境界領域(誰そ彼(たそがれ)、[[逢魔が時>GoogleImage:逢魔が時]])に出現します。
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***登場人物の設定
-主役とは
登場シーンの多さや、セリフの多さは、実はあまり関係がありません。誰の視点で描かれているか、映像で言えば、誰の「視線」でショット間が編集されているかで、主人公が決まります。

-主たる登場人物の人数
一般に同時に記憶できるカテゴリ数  7±2 マジカルナンバー7(G.A.Millar)

-トリックスター
物語には、トランプゲームにおけるジョーカーのように、敵か味方かわからない境界領域的なキャラクターが登場するものです。文化人類学では、そうした存在をトリックスター(いたずらもの)と言います。
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***神話・昔話に共通した物語の構造は・・
-混沌としたスープ状の世界の中で、区分けが起こる。
-区分けられた中のひとつが物語の「中心」になる
-空間的な周縁と中心との交流が描かれる
-時間的な周縁(過去・未来)と中心(現在)とのつながりが描かれる
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**物語に関わる思考モデル

***中心と周縁
#image(CenterAndPeriphery/中心と周縁.png,right,40%)
#image(中心と周縁/中心と周縁.png,right,40%)
 我々は通常、我々を取り巻く世界を、
 友好的なものと敵対的なものに
 分割する思考に馴れている。
 山口昌男(文化人類学・民俗学)

物語は、市中に住む「常民」と、その外部に住む「異人」との交流がテーマになることが多くあります。特に日本の昔話には「村人」と「異人」という構図で説明できるものが多くあることは、例を挙げるまでもないでしょう。

-参考:[[まんが日本昔ばなしデータベース>http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/]]
-参考:[[Google:まれびと 異人]]
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***定常開放系(散逸構造系)
#image(Homeostasis/homeostasis.png,right,40%) 
物語の構造を説明する「中心と周縁」のモデルは、実は、生命体のホメオスタシス(恒常性・動的な秩序)を説明するモデルと同じです。
#clear
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***境界領域
-魑魅魍魎の住む世界
-位置づけがあいまいないもの(排泄物)、節のないもの(ミミズ、蛇、髪)
-あちらのゴミはこちらの宝・・という発想
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***贈与と返礼
-贈与と返礼は多くの物語に共通に見い出されます。
 人間の作り出す社会システムはすべて、
 同一状態にとどまらないように構造化されている。
 クロード・レヴィ=ストロース

-社会が存在しつづけるには、絶えず変化することが必要です。以下のいずれも、構造的な「変化」をするような社会構造を持っています。
--熱い社会:絶えず新しい状態へと歴史的に変化する社会(文明社会)
--冷たい社会:歴史的変化を排除し、新石器時代と変わらぬ無時間的な構造を維持している社会(野生の思考が領する社会)
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***秩序の組み換えについて
 秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない 
 ルドルフ・シェーンハイマー(生化学)
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***第三項排除
排除された第三項が、闇から全体をコントロールする・・という構図は多くの物語で見られます。
 闇の日本史 / いじめ / 鬼ごっこ / 野球 / 貨幣 / トランプのジョーカー 
今村仁司「排除の構造」(現代思想・哲学)
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***物語は進化する|進「物」史観
 まず最初に短い単純なお話がある。
 こういうのを少しずつ変異させたり、組み替えたりして、
 長い面白い物語が生まれてくるんだ。
 原始的な生物が単に突然変異と遺伝子組み換えだけで
 複雑な生物に進化したのと同じだろ?
金子邦彦, 1998, カオスの紡ぐ夢の中で, 小学館文庫, p.118
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**物語のパターン

***物語の構造・分類に関する諸説
-[[ジョゼフ・キャンベル>Google:ジョゼフ・キャンベル]]の神話論
物語の主人公は、天命を受けて非日常の世界への旅に出る。そして、イニシエーションを経て、元の世界に帰還する。これが神話に共通の構造である。
文献:[[ジョゼフ・キャンベル 「千の顔をもつ英雄」>Google:ジョセフ・キャンベル 千の顔をもつ英雄]]
--Calling(天命を授かる)
--Commitment(旅の始まり)
--Threshold(境界線)
--Guardians(メンター、導師、守護者)
--Demon(悪魔)
--Transformation(変容)
--Complete the task(問題の解決)
--Return home(故郷への帰還)

-[[ウイリアム・シェイクスピア>Google:ウイリアム・シェイクスピア]]による「36分類」

-[[ウラジミール・プロップ>Wikipedia:ウラジーミル・プロップ]]による「昔話の構造31の機能分類」
例)「行って帰る物語」 欠如 > 異界 > 変化 ・・「昔話の形態学」

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***比較神話学に見る神話の型
マイケル・ヴィツェル(Michael Witzel)が提唱した「世界神話学」では、神話は以下のように分類されています。

-''パン・ガイア(Pan-Gaean)神話''
アフリカで誕生した現生人類最古の神話。

-''出アフリカ神話''
アフリカを出てインドに到着した頃の神話。

-''ゴンドワナ(Gondwana)神話''
ユーラシアの沿岸を移動してオーストラリアに到達した頃の神話。現在のサハラ以南のアフリカの神話と共通した特徴(創造神話の欠如、女性呪術師の欠如など)がある。

-''ローラシア(Laurasian)神話''
インドから東南アジア、中国、日本、シベリア、 北米、中米、南米に向かう流れと、インドからユーラシア内陸に向かう流れ、そしてインドから西へ向かってヨーロッパや北アフリカに流れた神話群。その特徴は、宇宙と世界の起源、神々の系譜、半神的英雄の時代、人類の出現、王の系譜の起源、世界の暴力的な終末(と復活)などが共通している。

''付記''
-2億5千万年前 地球上にはひとつの超大陸パンゲア
-1億5千万年前 北のローラシア大陸と南のゴンドワナ大陸に分裂
-1億年前ごろからそれぞれが徐々に分裂細分化
-ホモ・サピエンスがアフリカに登場するのは 30万年前ごろで、大陸はすでにほぼ現在の形になってからなので、ゴンドワナ神話やローラシア神話という言葉は、大陸分布と直接的に関係するものではありません。
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***ミステリーの指針
推理小説を書く上での指針として以下のようなものがあります。いずれも同時代に小説家自らが著したものです。ミステリーを執筆してみたい方、まずはご一読下さい。もちろん、これらを踏まえた上で、あえて掟破りをした作品も多く存在します。

-[[ノックスの十戒>Google:ノックスの十戒]] [[ロナルド・ノックス>Wikipedia:ロナルド・ノックス]], 1928
-[[ヴァン・ダインの二十則>Google:ヴァン・ダインの二十則]] [[S・S・ヴァン・ダイン>Wikipedia:S・S・ヴァン・ダイン]], 1928
-[[チャンドラーの九命題>Google:チャンドラーの九命題]] [[レイモンド・チャンドラー>Wikipedia:レイモンド・チャンドラー]], 1949
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***映画のストーリーパターン
-映画のストーリーには、以下のような様々な定番の型があります。
--''バディもの(相棒もの)''
&scale(75){ホームズとワトソンの関係。前者が天才・変わり者、 後者が常識人。関係構造は漫才コンビと同様};
--タイムスリップもの
--サスペンスもの
--成長もの
--ロードムービーもの
--ファンタジーもの

-映画の脚本に関する書籍には、様々なパターンが紹介されています。
--&small(ブレイク・スナイダー, 10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術, 2014, フィルムアート社);
--&small(クリストファー・ボグラー, 物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術, 2013, アスキー・メディアワークス);
--&small(ブレイク・スナイダー, SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術, 2010, フィルムアート社);
--&small(貴志 祐介エンタテインメントの作り方, 2015, 角川学芸出版);
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