音声と音楽についての覚書
この国の音楽教育はどこかおかしい・・と常々感じていました。これほど身近に音楽があるのに、子供たち(特に男子児童)にとっては「嫌いな科目」に位置づけられてしまっている。そもそも、ハーモニカとかリコーダーとか「音のしくみ」が目に見えにくい楽器で学ぶのがおかしい。ギターのような、音の物理的性質が直接目に見えるものを使えば、すべてがクリアに理解できるのに・・.
ということで、ここではまず「音」というものを物理現象として捉えることからはじめてみたいと思います。
まず確認ですが、周波数というのは、単位時間(1秒)当たりに繰り返される振動回数のことで、その単位としてはHz(ヘルツ)を用います。
音楽における音の高さ(ピッチ)というのは、音の基本周波数のことで、例えば A4(ラ)の音は 440Hz。一秒間に440回 空気を振動(縦波)させています。
楽器の奏でる音の大半は、単一の周波数(基本周波数)だけではなく、その2倍、3倍、4倍・・・様々な「倍音」を含んでいて、その混ざりぐあいで、同じ「ラ(A4)」の音でも、これはバイオリン、これはサックス・・・といった「音色の違い」を生んでいます。ちなみに、基本周波数だけで倍音を含まない音を「純音」といいます。
一般に基本周波数とその整数次倍音からなる音は、基本周波数のピッチを感じさせるもので、そうした音は、はっきりとしたメロディーや和声をつくることができます。これを「楽音」といいます。
逆に、整数次の倍音以外の周波数成分を含むと、ピッチを感じづらくなります。振動に一定の規則性がない打撃音や太鼓の膜の振動音などがその典型で、これを非楽音(噪音)といって楽音とは区別します。
ちなみに、ラップスタイルの歌声は、音高を特定しずらく、楽譜にメロディとして記述するのは難しい・・・その意味では、非楽音的な音といえます。
物理的に基本周波数が 1:2 となる音程間隔を1オクターブといいます。 ギターでは、弦長のちょうど半分(中央)の位置に12フレットがあって、そこで開放弦の音程の2倍の周波数の音が出ます。 管楽器の場合は気柱管の長さを半分にすると1オクターブ上の音が出ます。
ちなみに、人間の耳に音として聞こえる周波数帯は 約 20Hz - 20,000Hzです。20Hz の1オクターブ上は 40Hz その1オクターブ上は 80Hz その上は160Hzというぐあいに2倍、2倍・・・されていくので、10オクターブ(2の10乗=1024)で約1,000倍の 20,000Hz に達します。これはつまり、人間の耳にはせいぜい10オクターブしか聞こえない とうことを意味しています。
我々の身近にある楽器は大半が 12音階、ギターでいうと12のフレットで1オクターブを区切る音階の各音が出せるようになっています。
1オクターブすなわち2倍、これを 12 に区切る際には、等差ではなく、等比で(周波数比が一定になるように)区切ります。つまり、各フレット間の(半音の)音程が、どこでも同じ周波数比になるように区切るのです。このように各音を調整した楽器を「平均律楽器」といいます。代表的なものがギターです。
では、半音の周波数比とはいくつになるのでしょうか?
半音の周波数比をPとすると・・12 段上がったところでちょうど 2倍 ですから
p x p x p x p x p x p xp x p x p x p x p x p = 2 となる値、
すなわち 2の12乗根で、 pの値は約 1.059 となります。
つまり半音上げるというのは、周波数で言うと 1.059 倍することを意味します。
半音の音程を100セントといい、1オクターブは1,200セントになります。
セントという単位を使うと、さらに変則的な音程も扱えることになります。
補足:微分音
半音よりさらに細かく分けられた音程として、微分音(びぶんおん)という概念があります。一般的な商業音楽には無理かと・・。Wikipedia:微分音
音律(おんりつ)とは、音程の相対的な関係を規定するルールのことです。先に触れたように、私たちの身の回りの大半の音楽は、音程の周波数比について、ギターに代表されるような12階の等比を用いる「平均律」を用いていますが、音程の選び方は、等比ばかりではありません。
代表的なものにピタゴラス音律があります。音楽科学の祖、ピタゴラス Pythagoras(紀元前 582-496年)は、「万物は数である」と考え、心地よく響く和音の音程が、簡単な整数比で表されることを発見しました。現在の「ドレミファソラシド」にあたる音階のはじはりは、このピタゴラス音律(Pythagorean tuning)にあります。大学における自由七科に音楽があるのは、それが数学的存在であり、幾何学と同様の学問の対象であったからです。
音名とは、絶対的な音の高さ、つまり物理的周波数が対応するものです。
1オクターブ上のものには、同じ名称が与えられますが、例えば、ピアノの中央ドは C4、その1オクターブ上は C5 などと区別します。ピアノの中央ド(C4)の上のラの音が、A4 = 440Hz で、調律に使う音叉はこの 440Hz が一般的です。
主音に対する相対的な高さを意味するもので、日本では、イタリア式音名をそのまま階名として使っています(「移動ド」といいます)。
Do (ド) Re (レ) Mi (ミ) Fa (ファ) Sol (ソ) La (ラ) Si (シ)
主音がC(音名)ならC-D-Eがド-レ-ミ、主音がG(音名)ならG-A-Bがド-レ-ミということになります。
主音(root音)とは、音階(scale)の最初の基準音で、一般的に楽曲のメロディーは主音で終わることで終止感が得られます。 つまり、ドレミで歌えば、大半の楽曲は「ド」の音で終わります。
ピアノの「ド」と、アルトリコーダーの「ド」は違います。ピアノの「ド」は音名では(物理的には)C、アルトリコーダーの「ド」は音名では(物理的には)F です。このような違いを説明するために、一般に「アルトリコーダーのキーは F である」、「アルトリコーダーは F管である」などと言います。
したがって、アルトリコーダーでド-レ-ミ・・とやるときは、ピアノはファ-ソ-ラ(音名でF-G-A・・・)と弾かないと合いません。
同様に、アルトサックスのキーはE♭、ソプラノサックスやテナーサックスのキーはB♭です。同じド-レ-ミ(階名)でも、出ている音名(物理的な周波数)は異なっているのです。
ここからは、別窓で musictheory.net の Pop-up Piano を開いて、実際に音を出して確認すると。理解がスムーズになります。
現在我々の身近にある音楽の大半は、ドレミファソラシ、つまり基音から順に、
全音 - 全音 - 半音 - 全音 - 全音 - 全音 - 半音 という間隔の音階(スケール)を使って作られています。これをメジャーのダイアトニックスケールといいます。ピアノはまさにこのステップを視覚的に表現したもので、以下のように「ミとファの間」と「シとドの間」は半音(黒鍵が無い)になっています。
ギターでは1フレット分が「半音」にあたるので、任意のフレットを基準(ド)として、そこから、 - 2Flet - 2Flet - 1Flet - 2Flet - 2Flet - 2Flet - 1Flet と進めていくと、メジャーダイアトニック、つまりドレミファソラシドと聞こえる音階が得られます。模式図で書くと以下のようになります。
|◯|ー|◯|ー|◯|◯|ー|◯|ー|◯|ー|◯|◯|
◯が押さえて弾くところ、ーは弾かない。
ダイアトニックスケール上の音は「ハモる」、つまり、「各音の整数次倍音に共通要素が含まれる」という物理的な性質を持っています。だからこそ、それが耳にも気持ちよく、世界中でこれだけ普及しているわけですが、しかし、音楽を楽しむのにそれが大前提・・・というわけではありません。音と音がハモる「和声」を前提としない音楽であれば、どんな音を使っても構いません。幼少期からピアノや5線譜を基準に音楽教育を受けたために、私たちはそれを特別視してしまいがちですが、本来はもっと自由なものである・・と考える方が理解がスムーズになります。
ギターのような弦楽器には1オクターブ、つまり例えば「ド」から上の「ド」までの間に 12個のフレットがあります。これを全部使う音階、12音階のことをクロマチックスケールといいます。すべての間隔が半音なので、そのステップには「はじまり」や「おわり」がありません。こういうのを「調性が無い(無調)」といいます。
で、ダイアトニックスケールよりは、この12音階の方が、よりプレーンなものと考えることができます。というのは、音楽の大半は、基本この12音の中からいくつかの音をセレクトして作った音階セットを使っているからです。
12の音からどれを選んでどうに並べるかによって様々なスケールが成立します。
以下、そのいくつかの例を示します。
つまり、12種類の音の中から、いくつかを選んで、音のセットをつくると、そのセットごとに、雰囲気(ジャンル)のまったく異なる音楽をつくることができる・・・ということです。
完全にオリジナルな音楽を作りたいときは、まずは、12の中から「これとこれとこれ・・・」と決めて、その音だけを使えば、他には無い新規性の高い曲が作れる・・・ということです。もちろん、それがダイアトニックスケールほど多くの人に受け入れられるかどうかは別ですが・・・
ド>ソ>レ>ラ>ミ蛍の光、AmazingGrace 、let It be のギターソロ部分・・。シンプルな原理であるため、世界的にもヨナ抜きはよく使われています。日本におけるヨナ抜きの普及には、伊沢修二(音楽の和洋折衷)が関わっています。
コードとは高さが異なる複数の音を重ねた「和音」のことです。ポピュラーミュージックでは、歌詞の上に「C」とか「G」といったコードだけを書き込んだ「コード譜」がよく用いられます。この音楽の教科書では隅の方に追いやられているので馴染みの無い方も多いようですが、音楽を気軽に楽しむには非常に便利なものです。
以下、代表的なパターンを紹介します。
◯ーーー◯ーー◯
例えば、コード譜で C と書いてあった場合
CーーーEーーG という3つの音を鳴らせばいい・・ということです。
EーーGーーーーC でもいいし、 GーーーーCーーーE でも構いません。
これらは「転回形」といいます。
で、さらに例えば、コード譜で E♭ と書いてあった場合は
E♭ーーーGーーB♭ という3つの音を鳴らせばいい・・
要するに、コードネームにある音名を根音として、
同じ音程関係にある3つの音を鳴らせばいい…というわけです。
したがって、C, C#, D, D#, E・・B まで、12種類のMajorTriadコードはすべて
間隔を保ったまま位置をずらすだけ。 本当はとても簡単な話なのです。
ピアノの場合、白鍵と黒鍵という本来物理的に同等のもの*1を不平等に配列しているので、白鍵だけでまとまる C, F, G のような和音と、白鍵と黒鍵が入り交じる C#のような和音とでは、ずいぶん難易度が異なりますが、ギターのような楽器の場合は、弦間の音程関係はどのフレットでも同じなので、開放弦を使わない押さえ方の場合は、例えば、F と F# とは、押さえ方は同じで、1フレットずらすだけです。 どの弦に根音をあてるかによって押さえ方の形は数種類ありますが、要するに覚える必要があるのはその数種類の形だけで、あとは位置をずらすだけです。
◯ーー◯ーーー◯
例えば、コード譜で Cm と書いてあった場合
CーーE♭ーーーG という3つの音の構成です。あとは、上記の話と同じです。
◯ーー◯ーー◯
◯ーーー◯ーーー◯
◯ーーー◯ーー◯ーー◯ 7 ◯ーーー◯ーー◯ーーー◯ M7 ◯ーー◯ーーー◯ーー◯ m7 ◯ーー◯ーー◯ーーー◯ m7-5
◯ーーー◯ーー◯ーー◯ーーー◯ 9
◯ーーーー◯ー◯ルートから4番目のファ(階名)を加えます。4度の音は不安定で、3度への下降を強く示唆します。
◯ーーー◯ーー◯ー◯
◯ーーー◯ーー◯ーーーーーー◯
音と音が調和する(俗にハモる)とはどういうことか? それは、音と音の周波数比が単純な整数比になる・・つまり、それぞれの倍音に共通成分が存在する・・・という物理的な根拠によるものです。 例えば、完全5度の音程、つまり「ドとソ」や「レとラ」の間には、周波数比で 2:3 というきれいな整数比の関係があって、ドの音の3倍音は、ソの音の2倍音と等しくなります。同様に、ド・ミ・ソ、ファ・ラ・ド、ソ・シ・レといった3和音は、いずれも4:5:6という周波数比になります。これがハモるということの物理的な理由です。
完全5度 | ドとソ | 2:3 | ※ドの3倍音とソの2倍音が等しい |
完全4度 | ドとファ | 3:4 | ※完全5度と裏返しの関係です |
長3度 | ドとミ | 4:5 | ※ドの5倍音とミの4倍音が等しい |
長2度 | ドとレ | 8:9 | |
オクターブ | ドと上のド | 1:2 |
補足
周波数の比が単純な整数比になる…というルールで規定される音律を純正律(Just Intonation)といって、例えば、Cを基準とした場合、純正完全5度(2:3)と純正長3度(4:5)を用いて、「Cの3度上がE、5度上がG」、「次にGの3度上がB、5度上がD」、さらに「Cの5度下がF、Fの3度上がA」といったぐあいに音を調整して1オクターブを構成します。平均律とは異なり、物理的にきれいな調和した響きが得られます。
一方、12ステップを単純に等比間隔で作っている平均律(ギターはその代表)では、和音を構成する音程間隔がきれいな整数比にならないので、きれいな響きは得られません。特に長3度の周波数比などは、4:5からかなりズレていているので、響きは汚くなります。これは平均律楽器の宿命です。
私たちに馴染み深いポピュラーミュージックでは、旋律を包み込むフレームとしてのコード(和音)が、一小節あるいは半小節を基本的な時間単位として変化していきます。
ダイアトニックスケール上にできる和音は、基本的に以下の7種類。
I IIm IIIm IV V VIm VIIm-5
似た構成音を持つものを進行上の役割でグルーピングすると、結果的に以下の3+1種類となります。
Tonic、Dominant、SubDominant、SubDominant Minorの各和音は、ケーデンス(cadence)の原理にもとづいて進行します。
進行の可能性としては
結果、以下のような進行パターンが考えられます
コード進行には、ある程度音楽的な必然性があって、結果として、いくつかのパターンに集約されます。例えば、1-6-2-5進行(I-VIm7-IIm7-V7)や、カノン進行(I-V-VIm7-IIIm-IV-I-IV-V)など、私たちがよく耳にする音楽には、よく用いられる典型的なパターンがあります。
コード進行パターンそれ自体は著作権の対象となるものではありませんので、はじめて作曲にチャレンジする場合などは、まず典型的なコード進行をまねてみる…というところからスタートするのもひとつの方法です。
ジャズやロックでブルースと呼ばれる楽曲は、ブルース進行と呼ばれる一定のコード進行に従っています。 曲の流れが決まっているので、例えば、初対面のミュージシャン同時でも、「じゃ、Aのブルースで」と決めて、ドラムがリズムのきっかけをつくれば、あとは適当、いきなり演奏を始めることができます。
YouTube: 12bar Blues
YouTube: johnny be good 12bar blues
Miles Davisの「So What」という曲は、「モード奏法」の代表的なもので、コードとしては Dm7 ひとつ(正確にはEm7→Dm7の繰り返しで、転調もあり)だけで私達が耳慣れている J-Pop のようなコード進行はありません。
したがって、Dのドリアンスケール上の音(レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド・レ)のみを使うという制約にしたがって即興的に演奏することができます。
ふつうのJ-Popでは、適当に音を拾うだけでは即興的に曲に合わせるのは無理ですが、この曲の場合、「Dのドリアンスケール上の音」であれば、どのタイミングでどの音を鳴らしても無理なく聞こえます(もちろんリズムには乗る必要があります)。「Dのドリアンスケール上の音」…というと難しく聞こえますが、要するに、普通のドレミを「レ」を基準にするだけなので、ピアノで言えば、白鍵ならすべてOKという、極めて簡単な話になります。
実際の楽曲は変化をつけるために転調する部分がありますが、ピアノの白鍵に指を置いてお試し下さい。
ギターという楽器は単純な構造であるがゆえに、カスタマイズ性に優れています。特に6本の弦のチューニング自体を変えるという操作は、表現の可能性をさらに大きくします。
通常のチューニングです。 6弦- 5弦 - ・・-1弦 の順に記載
E - A - D - G - B - E
開放弦の状態で特定のコードが鳴るようにチューニングする方法です。スライドバー(ボトルネック)を用いた演奏でよく用いられます。Open G、D、A、E、Em、Dm、など多数あります。
D - G - D - G - B - D
D - A - D - F# - A - D
12弦ギター用の弦の副弦のみを使う・・という発想で、レギュラーチューニングと同じ並びですが、6弦から3弦までが1オクターブ高くなります。コードの押さえ方は同じですが、6-1弦の音程差が前後するため、特にフィンガーピッキングでは独特の雰囲気が出ます。
E↑ - A↑ - D↑- G↑ - B - E
出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:C-Major-Scale_on_the_fretboard.svg