ヒト
Homo Sapiens|RedList:LC|Global Invasive Species Database:Not listed
CONTENTS
はじめに
ヒト(ホモ・サピエンス)という異端のサルは、他の動物とは異なる認知方略と生存戦略、すなわち、「幻想の共有」と「予見と計画」をもって、あらゆるモノ・コトをデザインします。ヒトについて知ることは、デザインの原点を知ることにつながります。
ただし、「デザインする」という人類の生存戦略が「正解」かどうかは別の話として・・
生物学上のポジション
哺乳綱(Mammalia)> 霊長目(Primate)> ヒト科(Hominidae)> ヒト族(Hominini)> ヒト属(Homo)> ヒト(種名)( H. sapiens)
私たち ホモ・サピエンス は、ホモ属(ヒト属)の最後の生き残りです。
類人猿(ヒト上科のサルの総称)
- ヒト科(大型類人猿) 広義の「人類」はこのヒト科をさします
オランウータン属 / チンパンジー属 / ホモ属(ヒト属) / ゴリラ属 - テナガザル科(小型類人猿)
ホモ属
- ホモ・サピエンス・サピエンス(現生人類)
- ホモ・サピエンス・イダルトゥ
- ホモ・サピエンス・デニソワ
- ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス
- ホモ・フローレシエンシス
画像出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Homo_lineage_2017update.svg
図の縦軸の数字の単位は、1.0 = 100万年です。
人類の拡散
地質時代区分
地質時代は、大量絶滅など生物の様相の大きな変化を境に区分されています。
先カンブリア時代:地球誕生から 5億4100万年前まで
- 冥王代:地球誕生から40億年前(生命の誕生まで)
- 太古代:40億年前〜25億年前(原核生物から真核単細胞生物の出現まで)
- 原生代:25億年前〜5億4千万年前(真核単細胞生物から多細胞生物まで)
注1)冥王代、太古代、原生代、顕生代という4区分もあり、その区分では最後の顕生代は、先カンブリア時代以後の古生代、中生代、新生代 をまとめた時代を意味する。
注2)全球凍結イベント:約22億年前、7億年前、6億年前の少なくとも3回
ー ー ー V-C(E-C)境界(End-Ediacaran extinction) ー ー ー
ゴンドワナ超大陸の分裂に関わるスーパープルームの上昇と大規模火山活動で、原生代のエディアカラ生物群が大量絶滅
古生代:生物が多様化。魚類、両生類の進化と生物の陸上進出
- カンブリア紀:5億4100万年前~4億8500万年前
- オルドビス紀:4億8500万年前~4億4400万年前
- シルル紀:4億4400万年前~4億1900万年前
- デボン紀:4億1900万年前~3億5900万年前
- 石炭紀:3億5900万年前~2億9900万年前
- ペルム紀:2億9900万年前~2億5200万年前
ー ー ー P-T境界(Permian-Triassic boundary) ー ー ー
ペルム紀(Permian)と三畳紀(Triassic)の境界。超大陸パンゲア直下に達したスーパープルームにより、大量のマグマが発生、爆発的噴火による塵の影響で、地球全域が急激に寒冷化 > 大量絶滅
中生代:爬虫類の時代
- 三畳紀:2億5200万年前~2億100万年前
- ジュラ紀:2億100万年前~1億4500万年前
- 白亜紀:1億4500万年前~6500万年前
ー ー ー K-Pg境界(Cretaceous-Paleogene boundary)ー ー ー
白亜紀(Cretaceous)と古第三紀(Paleogene)の境界。現在のメキシコのユカタン半島に、直径10~15キロメートルの小惑星が衝突して急激な環境変化 > 大量絶滅
以前は、古第三紀ではなく第三紀(Teriary)の頭文字をとって、K-T境界 (Cretaceous-Tertiary boundary)と呼ばれていました。
新生代:鳥類・哺乳類の時代
- 古第三紀:6500万年前~2300万年前
- 新第三紀:2300万年前~258万年前
- 第四紀:258万年前~現在
人新世について
人新世(じんしんせい、ひとしんせい:Anthropocene)という表現は、、人類の活動が地球の地質・生態系に与えた影響に気づきを与えるべく提案された地質時代区分です。1万2千年前の農耕革命から、あるいは産業革命以後、いずれにしても、過去の地質時代区分に匹敵する痕跡を地球表面に遺すであろうことから名付けられた現在を含む時代区分です。
人類略史
垂直軸(時間軸)におけるヒトの理解
以下、ヒト上科の分岐から最近までの人類の歴史を概観したものです。個人的な趣味に基づく項目が多分に含まれていますので、あくまでも「ヒトについて考えるヒント」・・という程度で眺めて下さい。
私たち個体が生きている時間はわずかです。長いスパンで歴史を振り返ると、人類は、進化の過程で何度も絶滅の危機に遭遇してきたことがわかります。
氷期の到来、火山の破局的噴火、新種のウイルスとの遭遇・・持続可能な未来のデザインには、もっと長大なスケールで物事を考える必要があります。
- 3000万年前 ヒト上科が他と分岐
- 2000万年前 テナガザルが分岐
- 1000万年前 ゴリラとチンパンジーが分岐
- 700万年前 サヘラントロプス
- 440万年前 アルディピテクス属:ラミダス猿人
- 直立2足歩行?(食料運搬仮説:モノを持って移動する姿勢の常態化)
- 一夫一婦制?(オス・メスのサイズが同じことから推定)
- 390万年前 アウストラロピテクス属:アファール猿人
- 脳容量 約350- 550cc(チンパンジー:395cc)
- 240万年前 ホモ属:ホモ・ハビリス
- 脳容量 約645cc
脳の容量拡大はホモ属から。同時に生息域もユーラシア全体へ拡大。 - 道具(石器)の利用(他に比べて噛む力が弱いことが逆に作用?)
- 昆虫、植物、死肉・骨髄の採集生活
- 脳容量 約645cc
- 180万年前 ホモ属:ホモ・エレクトゥス
- 狩猟のはじまり(採集生活に比べて強い意志、知的行動が必要)
- 体毛の減少(毛皮をまとわない裸身は、生物としては本来致命的)
- 狩猟における持続的な運動時、汗をかいて体温調節するのに有利
- 水に潜ったか? 体毛がないのは水棲生物の特徴
- 80万年前 火の使用
- 77万年前 - 55万年前
デニソワとネアンデルターレンシスの共通祖先がサピエンスの系統と分岐
- 60万年前 - 30万年前 ホモ・ハイデルベルゲンシス
- 43万年前以前 デニソワとネアンデルターレンシスが分岐
- 40万年前 - 4万年前 ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス
- 脳容量 約1,500cc 骨格・体力もサピエンスに勝る
- ヨーロッパで進化 > 寒冷地適応
- 40万年前 - 1万数千年前 ホモ・サピエンス・デニソワ
- 30(〜20)万年前 - 現在 ホモ・サピエンス・サピエンス
- 脳容量 約1,350cc 人類の中では華奢な体格
- アフリカで進化して近親種との交雑を経ながら地球全体に拡散
- 9万年前 Aso-4噴火( 阿蘇 ) 九州瞬滅・日本列島全域に降灰
- 7万5千〜7万年前 インドネシア スマトラ島トバ火山の超巨大噴火。
過去200万年で最大規模と言われ、その後のヴュルム氷期(劇的な寒冷化)は約6千年続く。当時アフリカにいた人類は生き延びたが、ホモ属の多くが絶滅。
- 7万2千年前 衣服の起源(体毛のない体と、急激な寒冷化が原因?)
- ヒトに寄生するアタマ虱>コロモ虱への進化のタイミングから推察
- 7万年前 認知革命:shared fiction(共同幻想・共有虚構)
- 7万年前〜1万4千年前 最終氷期(ピーク時には海面が約120m低下)
- アジア-アラスカ間にベーリング陸橋
- 北海道と樺太、ユーラシア大陸は陸続き
- マレー半島東岸からインドシナ半島に接する大陸棚 = スンダランド
- 約6万年前
ネアンデルターレンシスとサピエンスは同時期に近くで暮らしていた
5万5千年前の遺跡(エルサレムの森)にその証拠
ネアンデルターレンシスとサピエンスの交配
- 5万年前〜1万5千年前(諸説あり)犬の家畜化
- イヌは東南アジアの高原でオオカミと分岐
- オオカミは遠吠えしかしないが、犬はワンワン吠えて人と関わる。
- 異種間コミュニケーションが人間の言語(犬の吠え)の発達に寄与?
参考:猫も基本的には人とのコミュニケーションに声を使う
- 4万年前 ホモ・サピエンスが北方から日本列島に入る
- 3万年前 ホモ・サピエンスが南方から沖縄に入る
白保竿根田原洞穴遺跡(石垣市)の旧石器時代人骨:約2万7千年前
- 2万6千年前 AT( 姶良-丹沢=鹿児島湾北部 )噴火 九州から関西まで降灰
- 2万年前 氷期寒冷化のピーク 海面は現在より120m低い
- 近海に人類の遺跡があったとしても不思議ではない
- 瀬戸内海は陸地。北海道は大陸と陸つづき。一方津軽海峡は140mと深いため、北海道と東北以南に生物圏としての隔たりが生じている。
- 1万7千年から1万5千年前 ハインリッヒイベント
ローレンタイド氷床から北大西洋への氷山群の流出で、Bondサイクルと呼ばれる10数年単位の急激な気温変動が起こる
- 1万年前 新石器革命(農耕革命・定住革命)
- 土器の製作(最古の土器は「日本製」といわれる)
- 日本では、約1万5千年前にはじまる縄文時代に定住革命がおこり、その後、紀元前3世紀頃にはじまる弥生時代に農耕革命。
- 7千3百年前 鬼界カルデラ噴火 九州南部(の縄文社会)全滅
- 7〜6千年前 完新世海進(縄文海進)のピーク 海面は現在より2〜3m高い。
- 有史以後の火山噴火と社会への影響
- 1257年 タンボラ火山(インドネシア)> 頻繁な改元、倹約令
- 1450年 ピナツボ火山(フィリピン)> 土一揆の頻発
- 1631年 ベスビオ火山(イタリア)> 寛永の飢饉
- 1707年 富士山 > 江戸に降灰・健康被害
- 1783年 ラキ火山(アイスランド)・浅間山 > 天明の大飢饉
- 1815年 タンボラ火山( 有史最大 VEI 7 ) > ヨーロッパ「夏のない年」
- 1991年 ピナツボ火山 > 平成の米騒動
遺伝的なターニングポイント
- 顎の筋肉細胞 200~240万年前 人間の顎は非常に弱くなった
→ 骨肉を砕く力のないことが石器という道具の発見の契機
→ 頭蓋骨にかかる負担が減ったことが脳の拡大を促す - FoxP2遺伝子 20~30万年前
この遺伝子の欠損と言語障害に相関がある。これはブローカ野(運動性言語中枢)の働きに関係しているが、FoxP2は現生人類のみに特有のものではなく、ヒトに特有の「言語能力」自体とは別の話のようである。 - 皮膚の遺伝子変異(裸身化)20万年前
毛皮の無い哺乳類は、クジラ、カバ、ゾウ、サイ、ジュゴン、アザラシなど、基本的に水棲か水辺の生き物(逆にラッコは水棲であるが毛皮がある)。 - 言語能力 約8万年前(6万年前の出アフリカ以前)
チョムスキーの言うUG(普遍文法)、すなわち概念を「併合」し再帰的なスタッキングを行う演算回路の発生(前頭葉肥大化?)がこの時期に生じている。
近親種(デニソワ, ネアンデルターレンシス)との違い?
デニソワ, ネアンデルターレンシスなどは、現生人類と各所で交雑があったことがわかっていて、例えば、ネアンデルターレンシスとサピエンスのDNAから現代ヨーロッパ、アジア人の遺伝子には約2%の痕跡あると言われます。
また、衣服、装飾、埋葬、ストーンサークル等の存在も共通、骨格等の状況から発話能力もあったと考えられています(FOXP2遺伝子は共通)。現時点で、両者の差異をあえて強調すれば、以下のような事項がホモ・サピエンスの特徴と考えられます(完全な線引きができるものではありません)。
- 思考のツールとしての言語活用能力
- 集団規模の大きさと広範囲のネットワークを用いた情報共有による技術革新
- 原始的な神・宗教(共同幻想)の発明 > 集団の秩序を維持する原理
- 高度なビジュアル・イメージ
世界中で行われている遺跡の発掘と、DNA解析技術の向上(2006年ごろから)によって、「人類史」は日々更新されています。
逆ホメオスタシス
一般に生物は、環境に適応して体の状態を維持することができます。これをホメオスタシス(恒常性:内部環境を一定の状態に保ちつづけようとする傾向)と言います。しかし、人類は個体レベルで環境に適応することから、個体を取り巻く環境を調整することへと生存戦略を逆転させました。服を着る、ストーブを焚いて室温を上げる。特定の場所に定住し、周囲のものを作りかえていく(デザインする)。つまり内部と外部を隔てる「膜」の位置を「個体表面」から「衣服」>「住居」>「都市」>「社会」へと拡大していったのです。結果として、個体として他の生物のように自然界に適応する能力は退化しています。
この逆ホメオスタシス現象こそ<過剰なる文化>がもつ両刃の剣であった。 外界の対象を迂回させることは、自らが迂回する能力の退化を並行する、 外なる自然の征服は内なる自然の破綻を呼ぶ。 文化は本能が退化したためにこれを補填すべく作り出されたものではなく、 その逆に、人間は文化をもったが故に、本能の歯車を狂わせたのである。
丸山圭三郎, 生命と過剰,1987
ヒトとチンパンジー
水平軸(空間軸)におけるヒトの理解
視線を垂直に時間軸を遡って過去から現在を眺めたあとは、視線を水平にして、現在の地球上で共存する他の生物との比較をしてみたいと思います。比較の相手は、進化の隣人であるチンパンジーです。
ニホンザルもチンパンジーも含めて「サル」と一括されることがありますが、実はそれは非常に乱暴な区分で、ニホンザルとチンパンジーでは大きな差があります。逆に、人とチンパンジーでは遺伝子レベルで98.4%程度一致していて、わずかな差しかありません。
遺伝子レベルの差異と、表現型の差異とはまったく別です。表現型は人間の視覚がとらえた差異にすぎません。私たちホモ・サピエンスは、コモンチンパンジー、ピグミーチンパンジー(ボノボ)と並ぶ、第3のチンパンジーなのです。
ヒトはどう生きるべきか。ヒトという生物が採用した戦略の特性を、そこまで遡って考えることが重要です。
直立二足歩行
これには、当然のごとく諸説あります。石や棒を持つのに都合がよい(実際、ヒト以外の猿も、何かを持った状態ではふつうに2足歩行します)、直立は日光に当たる面積を多くする(体温調節)、大きく見える(威嚇)、採集行動に都合がいい、樹間の移動に効率がいい、水中生活に合う・・などなど。有力なのは「物を運ぶため」というものですが、「水辺」での生活・・というのも興味深い話です。
魚貝類の採集生活・・これは確かにヒトの特徴かもしれません。アフリカに住むチンパンジーで、魚を食べたという報告はないようですし、一般に、チンパンジーは泳ぐことができず、水を避ける傾向があります。そもそもチンパンジーの体脂肪率では水に浮くことができません。
ヒトは進化の過程で水にもぐったのではないか・・。映画「ACRI」(石井竜也監督)に登場するホモ・アクアレリウスというのは、「人魚」のお話ですが、確かに「体毛が無い」というのは 水棲哺乳類(カバ、ジュゴン、クジラなど)の特徴です。
食物
果物、野菜、肉・・雑食であることは同じですが、決定的な違いは当然ですが「加熱したものを食べているかどうか」です(非加熱のデンプンと、加熱後のデンプンの違いで、虫歯の悪玉菌繁殖力がかわります。野生のチンパンジーに虫歯はありません。)。
肉食という点については、先述した魚介類を食べるか否かのちがい、またヒトの狩猟対象が有蹄類(偶蹄:牛、奇蹄:馬、長鼻:象)であるのに対し、チンパンジーの狩猟対象は霊長類が多いという違いがあるようです。
移動と定住
ヒトもチンパンジーも大型動物であり、基本的には「移動」生活が前提です。しかし、人類は約1万年前に「定住する」という戦略を採用しました。
巣をつくって定住する小さな動物は、排泄のコントロールが上手ですが、移動する大型動物は所構わず・・という状況。犬・猫・うさぎなどのトイレの躾は簡単ですが、チンパンジーにはおむつが必要・・と同様に、ヒトの赤ちゃんのトイレットトレーニングには長い時間を要します。ヒトも基本的には「移動生活」をする生き物であることがわかります。
定住の歴史はわずか1万年。人類の歴史からみると、現在の我々の日常は異常な状況にある・・という認識は重要です。
短期記憶
目の前のパターンを瞬時に記憶するということについて、ヒトはチンパンジーよりも能力が劣るといわれます。ヒトはその能力を犠牲にして、他の能力(長期記憶? 言語?)の開発に脳を使うことを選んだと考えられます。
京都大学霊長類研究所 動画DB
イメージ認知能力
チンパンジーなどの大型類人猿は、鏡による自己確認や写真の認知が可能で、またペンを使った落書き行為もします(ニホンザルなど旧世界ザルは落書きはしません)。人間の描く絵との違いは何か? 以下参考例です。
- チンパンジーの色彩認識能力
音楽を認知する能力
チンパンジーも「音のリズムに自分の動きを合わせる」ということを自然にします。音程を分けてコントロールできるか(音痴でないか)は不明ですが、時間軸上の秩序を認知するリズム感については、ヒトとチンパンジーに共通に備わった能力と言えそうです。
道具活用能力
智恵というレベルでは、チンパンジーも意外に優秀です。「パイプの底に落ちたピーナツを取る」という課題に対しては、子供のチンパンジーでも「水を流し込んで浮かせて取る」ということをやります。人間の場合は8歳以上でないと正解できません。
しかし、道具を使って道具を作ること(二次製作、例えば石斧を使って弓矢を作る)となると、難しくなりますし、もちろんコンピュータのような「形式的な知識」を要する機器操作は人間に軍配が上がります。
付記:道具の起源
道具には「武器」としての起源があります。素手では無理でも、武器を持てば、体格的弱者が強者に勝つこともできる。これは、生物一般の社会秩序と人間の社会秩序の違いを生んだひとつの要因といえます。
凶暴性
一般に動物のオス同士の戦いでは、相手が腹を見せるなりの降参の姿勢を見せると、それ以上の攻撃はしませんが、霊長類は凶暴です。チンパンジーの子殺しは頻繁に観察されているものですし(親近感のあるキャラクターですがチンパンジーは「猛獣」です)、またインドに生息する多妻型のハヌマンラングールの雄の場合、ハーレムを勝ち取る際に、雄に攻撃を仕掛けるだけでなく、その群れの雌が抱えている乳児を全て食い殺すという現象も観察されています。
ヒトの場合はどうでしょうか? 全体をおしなべてみれば「共生戦略」をとることで平和的に繁栄した生物のようにも見えますが、1万年変わらぬ暮らしをしているアマゾンのヤノマミ族では、民族内部の戦争状態が断続的に続いているし、先進国といわれる国々でも、戦争も含め、殺人は横行しています。
凶暴な性質を持つという点について、ヒトと類人猿を分ける境界は明瞭ではないのかもしれませんが、ヒトが行う「殺し」は「食べる」という行為とは一般に結びつかないこと、また、自身の肉体が傷つけられることよりも「自尊心」という「幻想」を傷つけられたときの方が怒り狂って凶暴になることなど、類人猿とは凶暴性のメカニズムが異なっているといえます。
計画性
ゴリラは、餌場へ向かう際に、餌をとるための道具を持参するという計画的行動をします。ただし14時間以内。長期的な先読みはできないようです。
協力
ヒトは幼児でも無条件に人に協力しますが(たとえば大人が落としたものをサッと拾って渡してくれます)、チンパンジーは見返りがなければ協力しません(自分に利益があることが必要条件です)。「見返りのない協力」「共通の目標に向かって協力」・・これはチンパンジーにはない、ヒトの特徴です。
…ところが、最近の研究で「見返りのない協力」も行うことがわかりました(ただし、相手から要求があった場合であり、ヒトのように自ら進んで協力することはありません)。
ちなみにイヌは協力する社会をつくります。またその協力関係は、種をこえて、ヒトとイヌの間にも成立しています。
シンボル操作
チンパンジーは、死体を埋葬する(墓づくり)のような、高度なシンボル操作に関わることはありません。また下の例でもそうですが、指差し、つまり指という記号が指し示すもの、を理解・活用することは難しいようです。以下のような実験事例があります。
2つのカップのいずれかに、中身が見えないように、また臭いで気付かれないように餌をいれ、実験者がヒントを与えるかたちで、どちらのカップを選択するかを試したところ、二択実験では・・
- 実験者が餌を取るしぐさをする場合
チンパンジーもそちらのカップを取る(ほぼ正解する)
- 実験者が餌入りカップを指差した場合
チンパンジーの選択は分散(正解率は低下する)
つまり、チンパンジーは「指差し」を理解しない。実験者が餌の位置を教えているとは想像しない・・ということです。
ただ、こんなこと(指示出し)をするキツネザルもいます。
https://www.youtube.com/watch?v=WXM8tUnSJ3o
ちなみにイヌは、指差しや、アイコンタクトを理解します。ヒトとイヌに共通しているのは、白目があること、すなわち「私が何を見ているか」をオープンにして「協力する」戦略をとっているということで、その協力関係は種を超えて成立しています*1。
言語
音声によるコミュニケーションは、もちろんチンパンジーも行います。しかし、ヒトが用いる音声言語の最も重要な特徴は「二重分節」つまり、音素という音の単位の組合せで単語という意味の単位が構成されているという点です。
ユニット単体には意味はなく、その組合せで情報ができる。これは5音階、7音階といった音階を用いてメロディーをつくる音楽も同じです。この「二重分節」が、取り扱える情報量を無限大にしたという事実が、最も大きな差であると考えられます。
奴隷体質
子供たちを集め、目標を定めて「よーいドン」。みな無邪気に競争に参加します。かけっこ、クラスマッチ、数値目標。なぜ競争しなければならないのか。一番になって何が偉いのか・・ヒトはそんな疑問を抱くことなく「競争」する生き物だといえます。
最大の報酬は金でも名誉でもなく、脳が感じる快感。ヒトは脳活動のほんの数パーセントしか意識化することができません。目標達成の快感を知った脳は、「なぜ」という問いを意識化させることなく、ヒトをあらゆる競争に積極的に参加させる。
積極的に奴隷になる(自己家畜化する)生き物はヒトだけです。
学習方略の違い
箱の中から飴(報酬)を取る・・その手順をどう学習するかについて、人(子供)とチンパンジーとを比較した実験事例があります。
ブラックボックス(内部の仕組みが見えない箱)と、ホワイトボックス(内部の仕組みが見える箱)の2つのケースで、いずれも、実験者が「飴を取り出し方についてのお手本」しめします。その際、実験者は 「箱の上を1回たたいて、次に横を2回たたく。次に蓋を開けて飴を取り出す」といったような無意味な手順を踏んで飴を取り出すこととします。
実際には、蓋を開けるだけで飴は取り出すことができます。
- ブラックボックス(内部の仕組みが見えない箱)実験
人もチンパンジーも、その形式手順をまねて餌をとる
- ホワイトボックス(内部の仕組みが見える箱)実験
人はその形式手順をまねてから飴をとるが、 チンパンジーは手順はまねることなく見えている飴に直接手を出す
つまり、ヒトは「形式を学ぶ」という学習方法をとるのです。なぜそんな無駄なことをするのか不思議になりますが、この学習方法のちがいが文明の発展に寄与したと考えると、「形式を重んじる」ということも、決して無意味なことではないと推察されます。現代人は、宗教儀式や祈りの行為を「形式的なもの、無駄な行為」と考えがちですが、人間だけがそういう行為をする、その差がヒトとチンパンジーの差を生んだのだと考えると、そこには大切な何かがある・・・とも考えられます。
チンパンジーは運動能力と短期記憶において人間よりも優位です。一方、ヒトは、言葉・複雑な道具(二次製作)、協力、そして「形式」「関係」の重視という特性をもちます。ヒトが捨てた戦略を訓練する試み(例えば短期記憶能力を訓練する)は、ヒトの進化のベクトルから考えれば、成功するとは考えにくいでしょう。チンパンジーから枝分かれしたときに、何を捨て、何を選んだのか…ヒトの未来のデザインを考えるときには、その再確認が必要です。
余談ですが
「形式(ルール)を提案し、それを全員が共有する」ということは、資源の節約にもつながります。例えば、「会議室の中に王様と家来の席をつくる」という場合、単純にこれをモノのデザインで実現しようとすれば、豪華な王様用の椅子と質素な家来用の椅子をつくるということになります。一人の王様のために一つの椅子を作るというのは、エネルギー効率の悪い仕事です。しかし、椅子など作らなくともいいのです。「入り口から最も遠い場所が王の座で、入り口に近くなるほど格が下がる」というふうに形式(ルール)を決め、それをその国の全員が共有する・・という「情報デザイン」をすれば、王様も含めて誰も不快に感じることはありません。この場合はコストゼロです。
日本人は、客人を迎えるときに、座布団をひっくり返して差出します。このルールは非常に形式的なものです。しかし、形式的な慣習を主人と客人が共有する・・・ということで、「普段使うことのないお客様用の座布団をわざわざ用意する」などという資源の無駄使いをせずに済んでいるのです。
座布団、風呂敷、折り紙・・・、日本人は、モノを特定の機能に特化させてデザインするのではなく、モノの使い手を訓練しそれを情報として共有する、というデザインの能力に長けています。これからデザインを学ぶ皆さんにとって、日本人のこの特性は、是非学んで欲しいことのひとつです。
もうひとつ。多くの人を楽しませるエンターテイメントにはそれなりのお金がかかる・・・というのが常識ですが(お金が動くということはそれだけエネルギー資源を消費するということを意味します)、例えば、野球というゲームを思い出して下さい。極端に言えばこれはボール1個あれば成立します。ボール1個をめぐって数万人の観客が楽しんでいます。同じ数の人間が大型の設備を持つテーマパークで遊ぶのと比べると、消費するエネルギーには極端に少ないでしょう。何がそれを可能にするのか? それは「全員が野球のルールを共有している」からです。ルールを知らない人が野球を見ても何が起こっているのか、何が面白いのかまったくわかりません。つまり「一個のボールと形式(ルール)の共有」が「省エネエンターテイメント」を可能にしているのです。
「ものをつくること、エネルギーを使って事を起こすことだけデザインではない。形式をつくって提案するだけでも、人と社会を快適にするデザインはできる」・・・という一つの例え話です。
ヒトとイヌ
ヒトとイヌの関係
イヌは東南アジアの高原でオオカミと分岐、5万年前〜1万5千年前(諸説あり)に、ヒトとのパートナー化が成立したと言われています(ホモ・サピエンス以外の人類は、イヌをパートナーとしていないようです)。最初の家畜動物とも言われますが、いわゆる食用としての「家畜」とは役割が異なります。
日本では・・
- 縄文時代・・イヌはパートナーだったと考えられます(埋葬事例あり)。
- 弥生時代・・弥生人はイヌを食べる文化を持ち込んだようです。
- 鎌倉時代・・イヌはパートナーであったと考えられます。
- 江戸時代・・西洋からの輸入犬も含め様々な犬種の存在が確認できます。
現在、多様な品種に分類される「イエイヌ」は、人間の手によって作り出された動物群です。同一亜種としては他に例を見ないほどに形態的な多様性が大きくなっていますが、イヌの品種(犬種)というのは、すべてイエイヌ亜種のさらに下位分類階層における変種に過ぎません。
いくつかの共通点・・・
- イヌの目には、ヒトと同様に「白目」があって、視線によるコミュニケーション(アイコンタクト)が可能です。また、眉の上の筋肉が発達していて(オオカミにはない)、いわゆる「上目使い」ができます。
- イヌもヒトと同様に「幼形成熟」という特徴があります。
- 見つめ合いによって、オキシトシン(幸福ホルモン)の分泌が確認されています。これは、同種間のみならず、イヌとヒトとの間でも起こります。
- 食生活を共にしたことから、イエイヌはオオカミにはないデンプン分解酵素をもつようになったと考えられています。
ヒトとイヌの協働
ヒトとイヌはともに「白目」があることで、その視線が相手にもわかります。「何を見ているか」を他者に対してオープンにしているのです。オオカミにも白目があって視線のコミュニケーションができるようですが、それは種内のコミュニケーションにとどまるようで、イエイヌだけが種を超えてヒトとコミュニケーションできるように進化したようです。
また、イヌはヒトの視線のみならず「指差し」も理解できます(これは近親であるチンパンジーとも異なる特徴です)。結果、狩猟犬、牧羊犬、救助犬、盲導犬など、様々な分野で「ヒトとの協働」ができるのだと考えられます。
- ヒトとイヌは「視線・指差し」を理解する(チンパンジーは理解しない?)
- ヒトとイヌは「協力」する社会を形成する(チンパンジーは違う?)
- ヒトとイヌは「共感」できる(「家族」となる絆が生まれる)
オオカミは「遠吠え」しかしませんが、犬は「ワンワン」吠えて人と関わります。簡単な「命令文」の構成からはじまった異種間コミュニケーションが人間の言語(犬の吠え)の発達に寄与した可能性があります。
違う種でも、同じ環境で生活していると、同様の形態(もぐらとオケラ)や性質を身につけていくことがある。これを「収斂進化」といいます。遺伝的に近親種であるという事実だけが「似る」ことの条件だとは言えません。
オキシトシン
最近の研究で、ヒトとイヌが見つめあうと双方にオキシトシンが増える・・ということがわかってきました。見つめ合い > オキシトシン > 幸福感・・これをポジティブループといいます。これは一般にヒトの毋子の間でおこりますが、ヒトとイヌの間でも生じるようです。見つめあう回数が多い飼い主とイヌ、双方にオキシトシンの分泌量が増えることが確認されています。ちなみにオキシトシンは、仲間内に対しては親愛、他所者に対してより攻撃的になる・・という効果をもたらします。
見つめ合うという行為は、一般に恋愛関係・親と幼児、あるいはヒトとイヌ・ネコ(?)でしかできません。見つめ合うことから得られる幸福感。ヒトは視線を交わすことのできる動物を選択的に選んできたのかもしれません。見つめ合いの体験時間が少ない現代人にとって、イヌは貴重な存在であると言えます。
参考:ATR1 ATR2 :ヒトになつきやすい遺伝子 (マウスの研究から発見)
イヌがヒトの自我を安定させる
犯罪者の更生プログラムに「イヌと共同生活させる」というものがあります。これはイヌとの関係構築によって「安定した自我を構築させる」という効果を狙ったものです。
ヒト同士は「言葉」を使ってコミュニケーションするので、その関係構築には「誤解や裏切り」といった不安要素が付き纏いますが(つまり他者との関係を前提とする自我というものは一般に不安定になりますが)、ヒトとイヌとの関係では命令文以上の言語コミュニケーションは行わないので、そうした問題が生じることはありません。ヒトとイヌとの関係を前提とした自我は、ヒトとヒトとの関係を前提とした自我よりも安定している・・ということができます。
人類が全滅し自分一人が残ったとする。ヒトはそんな孤独に耐えられるのか。映画「I Am Legend」で、ウィル・スミスが演じる科学者のロバート・ネビルが、愛犬サムを伴っていることは象徴的です。
MEMO
いくつかの文献と、個人の感想。
第三のチンパンジー
ジャレド ダイアモンド, 2017,草思社文庫
- 人種の起源は環境の違いによる自然淘汰ではなく、性的な選り好みにもとづく性淘汰である。自分と同じ肌・目・髪の色をもつ対象を性の対象とする傾向が特定地域における色のグループを顕在化させたのである。育った環境において見慣れたものを性的な対象に選ぶ・・ということは動物一般に見られる(ヒナは、異なる色をもつ里親のもとで育つと、里親と同じ色の異性を好むようになる)。
- 芸術の起源には、見落としがちな動機がある。それは求愛行動である。
アズマヤドリのつくる見事な巣も同様。生存とは無関係な造形行為がある。
女性を聞き手に想定した弾き語り、財力を誇示する絵画コレクション・・いずれも男性が女性を惹きつけることに一役かっている。
人間は集団を形成する生き物である。そこには集団を結束させるための「文化」が必要であり、そこに、言語も芸術も重要な役割を担っている。
芸術は、人間という種の保存、つまり生物としての必然性とは無関係と考えられがちであるが、それがなければ、人という種は絶えてしまうであろう。
- 生物地理学 − 動植物の世界的な分布の違いが、人類の歴史を左右した。
- 家畜化できる動物は限られる。檻の中で子を産む動物は限られる。ヨーロッパが他に先駆けて文明を進化させたのは、そこに生息した動物が、農業の進展、軍事力の進展に寄与したことが大きく、遺伝子的な優劣の差によるものではない。
現在アメリカに生息する馬は、ヨーロッパから持ち込まれたもの。 - ユーラシア大陸にあった小麦、稲は、温帯のベルトを伝って短期間に伝播したが、北アメリカにあったトウモロコシ(これは極めて扱いにくい種)は熱帯に阻まれて、南アメリカに伝播するのに長い年月を要した。
- 家畜化できる動物は限られる。檻の中で子を産む動物は限られる。ヨーロッパが他に先駆けて文明を進化させたのは、そこに生息した動物が、農業の進展、軍事力の進展に寄与したことが大きく、遺伝子的な優劣の差によるものではない。
- ジェノサイド(大量殺戮)は、ナチスによるユダヤを対象としたものだけが目立っているが、人類史を遡ると、それ以上のことが延々と繰り返されている。アフリカ、インド、タスマニア、オーストラリアのアボリジニ、そして北米インディアン、インカ、アステカ、ニューギニア・・西欧人による植民地化、大量虐殺は、人類の多くを滅ぼしてきた。
ヒト―異端のサルの1億年
島 泰三,2016, 中公新書
高等言語の発生にイヌの存在が関わっていた
空気と食物がいっしょになるという不利益な構造の突然変異によって、咽頭が上昇したホモサピエンスは、結果、音声コントロールの幅を広げた。しかし、それだけで現在のような高等言語が突然生まれたとは考えにくい。4万年前ごろまでは、呼びかけ+修飾語(近い・遠いといった程度)であったようだが、イヌとの出会い、異種間コミュニケーションに飛躍への契機があった。それが1万5千年前であると考えられている。
- 1万5千年前の出来事
- 東南アジアにおけるホモサピエンスの初の定住
- 家畜としてのイヌの出現(長江の南)
- 異種間コミュニケーション命令する言葉が生まれ、名詞と文が発生
内部集団における利他性と、外部に対する攻撃性
NHKスペシャル取材班 ヒューマン
「集団内の利他的互恵性(オキシトシン)」と「外部に対する利己的攻撃性(テストステロン)」はセットで生まれます。これが人類の生存戦略であったと考えられます(利他性と利己性を内外と組み合わせたシミュレーションでは「内部に利他的、外部に攻撃的な集団が最もサスティナブルな存在である」という結果が出たようです)。
以下のような現象は、ヒトのこのような戦略の現れであると考えられます。
- 秩序維持のために「いじめの対象を見える化」する
- クラスマッチでクラス内の団結が高まる
- 戦争中には国内の意識の結束が異常に高まる(自殺も減る)
人類全体が内部互恵性を維持するために発明されたのが「邪悪なモノ」であると考えられます。イジメの対象を異質な知人>隣村>外国>と拡大した末に見出された「架空の存在」。これを外敵と措定することは最も賢明な発明だと言えるでしょう。
同様に「宇宙に敵がいる」ということにすれば、人類は世界規模で利他的に協力することができそうです(映画 Independence Day など、宇宙からの侵略がテーマとなった映画では、世界中の軍が協力しています)。
神という究極の外部を措定して、それに制御権を渡すアイデア = 「宗教」というもの、世界中の人々が内部互恵性を育むことを想定していると言えます。
1万数千年前、狩猟採集と移動の限界に至った(グレートジャーニーを終えた)人類が、その持続可能性のために最初に見出したのが「神」「宗教」であり、それが「定住」の起源なのかもしれません。農耕は、ヒトが自分たちの暮らしを豊かにするためにはじめたものではなく、神に捧げるための供物をつくる目的ではじまった・・という説もあります。神 > 定住 > 農耕 の順という発想です。
直接互恵性と間接互恵性
NHKスペシャル取材班 ヒューマン
ホモサピエンスにおいて進化したものの代表が「協力」です。前者は直接的な相互の協力で、後者は社会の中で遠隔にいる他者の「評判」をふまえた間接的な協力です。この2つの互恵性を発揮するには、「記憶」と「言葉」の進化が必要であったと考えられます。
- 直接互恵性には「顔」の記憶が必要であり、
- 間接互恵性には「名前(言葉)」が必要である。
集団で生きる生物は多いが、その中で「顔」を見分けて対応する必要がある集団組織をもつのは「霊長類」です。顔を見分ける能力の限界と脳のサイズは比例していて、猿の集団は 30頭程度。ホモサピエンスの場合は 150頭程度。これが人間の集団サイズの限界を決めている・・という説があります。
ホモサピエンスが他の人類と異なるのは、集団の規模を拡大して情報を共有したこと、遠方からの物資の調達を可能にしたことなど、コミュニケーションシステムの発達が、気候変動などの環境の変化に対応した「拡散」の原動力となったのではないでしょうか。
情報を共有して相互に助け合うこと・・「経済」の本来の意味はそこにあります。> 経世済民(Wikipedia)
霊長類
- 最古の霊長類化石
- 中国:5,580万年前、アメリカ・ヨーロッパ:5,578万年前
- 手のひらにのるほどの小動物
- 2万年の間に、中国からアメリカ・ヨーロッパへ広がった 仮説
- 5500万年前の地球は、活発な火山活動と、それによる海底メタンの空中への拡散からによる超温暖化状況で、ベーリング陸橋でアジアとアメリカが、またグリーンランドでアメリカとヨーロッパが繋がった状態。地球全体が森林に覆われていて、木々を移動するサルにとって拡散が可能な状態であった。この時期、アフリカは海で大きく隔たれており、そこにはまだ霊長類はいなかった。
- アフリカ最古の霊長類の化石は3,700万年前
ミャンマーから西へ移動して入ったグループとみられる。ただ、アフリカとは陸続きではなかった。その頃は寒冷化、ヒマラヤの形成などによる気候変動が激しい時期。洪水等が多く、サルの移動に「浮島」が貢献したという説もある。
- カニ食いザルの存在は、霊長類の一部が川辺で暮らした経緯があることを示す
その他
- 生殖能力を失ってもなお生き続けるプログラムとは?
他の動物はみな生殖能力をなくすと同時に死ぬようにプログラムされています。それに対して、ヒトは生殖能力を失ってもなお生き続けます。数万年の進化の過程でそのような進化をしたのはなぜか。
それは、ヒトの老人に「知を伝授する、孫の面倒を見る」といった役割があったからではないでしょうか。
しかし現代社会においては、老人の知識が役に立つ場面は非常に限られてきます。世の中の変化が速すぎてその知識は「生産」に寄与することができず、また核家族化が進んだことで、老人に孫の面倒を見る機会が失われました。
高齢化は本当に問題なのか。ヒトが採用した生物としての戦略は、高齢者の持つ能力を積極的に活用することを前提としていたはずなのです。
「生産年齢人口」「定年・老後」といった言葉は、高齢者が社会にとっての「お荷物」であると言っているようなものです。言葉は「存在を喚起」します。負の言葉を排し、かわりに夢のある言葉をデザインして、高齢者をプラスの意味で存在喚起することが必要です。
- ヒトは「自己家畜化」する生き物である
ヒトは上司のいうことをききます。上司は餌をくれる立場にあるからです。ここで思いあたります。芸術とは何か・・それは「家畜がしないこと」です。それは「何か」を考えるとき、それが「何でないか」を考えることも賢明な方法です。「芸術とは何か」 > 「芸術とは何でないか」
- 遺伝子型の差と表現型の差は必ずしも同じではない
表現型とは人間の「視覚」がとらえるアスペクトに過ぎません。視覚は物事の限られた部分しか捉えていないのです。クジラは哺乳類、タラバガニはヤドカリです。我々は世界のごく限られたアスペクトでしかない視覚情報を過大に評価しています。
- 投擲具
ものを投げて獲物を獲るのは、ホモサピエンスとテッポウウオだけです。
参考
文献
- アンドレ ルロワ=グーラン 身ぶりと言葉
- 尾本恵市 ヒトと文明
- 海部陽介 人類がたどってきた道 “文化の多様化"の起源を探る
- クロード・レヴィ=ストロース 野生の思考
- 吉川 浩満 理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ
- 国分拓 ヤノマミ
- 小林達雄 縄文の思考
- コリン・タッジ 農業は人類の原罪である
- 篠田謙一 人類の起源, 中央公論, 2022
- 篠田謙一 ホモ・サピエンスの誕生と拡散
- 島 泰三 ヒト―異端のサルの1億年
- ジャレド・ダイアモンド 第3のチンパンジー、銃・病原菌・鉄
- スティーブン・ピンカー 言語を生みだす本能 暴力の人類史
- 立花 隆 サピエンスの未来 - 伝説の東大講義
- テイヤール・ド・シャルダン 現象としての人間(キリスト教的進化論)
- デヴィッド・クリスチャン他 ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか――宇宙開闢から138億年の「人間」史
- デヴィッド・グレーバー 負債論 貨幣と暴力の5000年
- 中沢新一 カイエ・ソバージュ
- 長沼毅 生物圏の形而上学 ―宇宙・ヒト・微生物―
- 西田正規 人類史の中の定住革命
- パット・シップマン ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた
- 福岡伸一 動的平衡 1,2,3
- ブライアン フェイガン 歴史を変えた気候大変動
- 松沢哲郎 進化の隣人 ヒトとチンパンジー
- 溝口優司 アフリカで誕生した人類が日本人になるまで
- 山極寿一 暴力はどこからきたか −人間性の起源を探る
- ユヴァル・ノア・ハラリ サピエンス全史
- リチャード・ドーキンス 利己的な遺伝子 虹の解体
- NHKスペシャル取材班 ヒューマン ー なぜヒトは人間になれたのか