あくまで個人的な概念整理|常に迷い中
デザインにおける「創発」と「最適化」の違い
ちなみに「ソーシャルデザイン学科」は、「創発デザイン」によって誕生した学科です。大学進学希望者のニーズから生まれたのではなく、学部再編プロジェクトにおけるメンバーの対話の中で「面白いんじゃないの・・」を契機として開設されたものです。当時、日本のどこにも「ソーシャルデザイン学科 」は存在せず、進路選択に関して「ソーシャルデザイン」を検索する高校生も存在しませんでした。つまり、ニーズを調査して最適化したものではなく、創発によって誕生した学科です。
人間の思考が「設計的」になるのに対し、生命の構築原理は、発生>適応という「発生的」なものです。
生命は最初に過剰を用意し、環境がそれを彫琢する
福岡伸一, 新版 動的平衡3, 2023
脳は胎生期に過剰なネットワークをつくって待ち構え、その後、環境からの刺激によって必要なものは強化され、不要な回路は刈り落とされる*1。脳内ネットワークは、環境に適応すべく「強化と刈り落とし」によって形成されていきます。
免疫系 B細胞(抗体産生細胞)は、細胞ごとに千差万別の抗体をランダムに準備するという無駄なことをしています。可能な限り大きな網を張った状態で、ウイルスの侵入時にはその抗体を産生する B細胞が短時間に自己増殖して大量の抗体を作り出すのです。侵入した抗原ウイルスと戦った B細胞は、その経験を通して最終的に数百から数千の「小隊」を温存します(免疫学的記憶の形成)。
抗体をランダムに準備する仕組みは、発生当初、自らを攻撃する抗体もつくてしまいますが、自己を攻撃することに気づいた B細胞は、自らにアポトーシスの仕組みを適用して自死します*2。無駄に多く作っておいて、刈り落とす・・脳内ネットワークの仕組みと同じです。
こう考えると、持続可能な多様性のためには、あえて「デザインしない」という発想も必要なのかもしれません。特定の問題を解決すべく最適化されたデザインは、想定外の問題に適応できない。生産完成品ではなく、動的に変化できる編集可能な仕組み、多くの無駄を含んだ仕組み、デザインしないことも視野に入れたデザイン・・という意味で「デザイン」の定義を拡張する必要があるのではないかと思います。