芸術学部新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。
Artist の感性によって問題を見出し、Designer の提案力で未来を創造する。
芸術学部の英語名は、Faculty of Art & Design です。
大学とは学問の場であり、その究極の関心ごとは「人間とは何か」を問うことです。あらゆる分野の学問がその研究対象を通して迫ろうとしているのは、人間( Homo Sapiens)であると言っても過言ではありません。
大学は教育機関であると同時に研究機関です。学生と教員との関係は「教える人・教わる人」ではなく「共同研究者」であるという認識の方が健全です。「勉める・強いられる」ではなく、Study をする場であると考えて下さい。
Question と Problem。ともに日本語では「問題」です。問題を解くことに専念してきた多くの日本人は「問題は与えられるものである」という感覚に慣れてしまって「問題」そのものを疑うことをしないようですが、大学生が精力を注ぐべきは、検索で答えが出るような Question ではありません。人と社会が抱える Problem を見出し、これに対する Solution を提案することです。
奴隷の最大の特徴は自分自身が奴隷であることに気づいていないこと
20世紀は工業の時代でした。現代社会はその時代に適応した人間たちがマジョリティ(多数派)を形成しているといっても過言ではありません。大人たちの大半は、産業革命以後の工業社会の発想に洗脳されていて、現代社会の「常識」も彼らの思考の産物と言えます。
人材 成長 目標 評価 消費者 ・・・
これらは何の問題もない言葉のように見えます。しかし、人間は社会のための「材料」でしょうか。「成長」はどこに向かっているのでしょうか。「評価」はすべての人を幸せにしますか。私たちは「消費者」ですか。この言葉の存在は、人間から「自分で作る楽しみ」を奪っています。現代人は何かを消費するために駆り立てられている・・そのことに気づいている人は少数です。
言葉というものは「存在を喚起する」と同時に我々を洗脳します*1。大人の話を鵜呑みにすることなく、普段何気なく使っている言葉を疑うことからはじめてみてください。
自分の視点を1段階上に引き上げて、自分が置かれた場所を俯瞰で見る(相対化する)。このとき人は1段階「成熟」します。成長は量的な変化でいつか衰える運命にありますが、成熟は質的な変化で、それは生涯有効なものとなります。
子供のころから聞かされてきた「ウサギとカメ」の話に疑問を呈します。
ある日ウサギとカメが山の麓までかけっこの勝負をすることになった。 予想通りウサギはどんどん先へ行き、とうとうカメが見えなくなった。 ウサギは少しカメを待とうと余裕綽々で居眠りを始めた。 その間にカメは着実に進み、ウサギが目を覚ましたとき見たものは、 山の麓のゴールで大喜びをするカメの姿であった。
文字、数式、そして科学技術・・そのいずれも、芸術に比べるとその歴史は浅く、現代社会の常識も大半は産業革命以後のもの。たかだか250年の歴史です。
一方、芸術は Homo Sapiens の誕生とともにあります。言葉、音楽、絵画、建築・・。芸術は、人類が文明に手を染める以前から我々と共にあって、社会の成熟に寄与してきました。その意味では「人間とは何か」を考える重要なヒントが「芸術」にあるといっても過言ではありません。
自動運転、翻訳、医療診断、記事の執筆、作曲、作画・・。知識や技術を学んで対応するだけであれば、人間よりもAI・ロボットの方が優秀・・というのが現在の状況です。人間とAIの違いはどこにあるのか、それを見極めて「棲み分ける」という発想が必要です。
大学では「卒業式」とは言わず「学位授与式」と言います。皆さんは芸術学部に所属しますので、卒業時には「学士(芸術)」が与えられます。全国に 800校近くある大学の中で、芸術学部は希少な存在です。つまり「学士(芸術)」も貴重な存在となります。良い意味でのプライドを持ってがんばって下さい。