研究とは、対象となる物事と仮説を定め、検証(追試)可能な方法(調査・観察・実験など)を通して真理を追求する一連の行為のことです。特に、学術研究においては、研究によって得られた知見に「新規性」があることを学会発表や論文投稿(査読)を通じて他の研究者に認めてもらうとともに、最終的にその知見を広く社会に公開・共有する必要があります。
ちなみに、研究の成果が未発表で、他者による査読・検証を得ていない研究は、「独自研究」といって、学術研究としては未成熟なものとみなされます(例えば、Wikipediaでも「独自研究は載せない」などのルールがあります)。
個人的に最も重要だと感じていることは「研究の成果としての知見を、広く一般に公開すること」です。企業が商品開発等を目的として行う研究では、開発費用を回収すべく、特許や実用新案といった「知的財産権」を主張する場合もありますが、大学のようなアカデミックな研究機関で行うものは、個人・組織・国家といった枠を超えて人類全体の未来に貢献するという姿勢が望ましい。どっちが先に発見したとか、特許申請はどっちが先だとか、そういう揉め事は絶えないようですが、そうした競争・争いは、研究者の世界を歪なものにしてしまいます。そんな争いをするよりも、同じテーマならば共同で研究して成果を出すことを考える方がよほど健全です。
興味関心を同じくする人たちが集まって、哲学的・科学的知見を共有すること、それが「学会」が存在する意義です。個人の利益を追求できる世界にどっぷり浸かっている現代人は、競争に勝って利益を独り占めすることに違和感を感じないようですが、そのような姿勢は、私は好きではありません。研究の面白さというものは、誰が一番か・・などということにではなく、国家の枠をも超えて、みんなで知見を共有することにあると感じています。
21世紀を迎え、社会と学術の接点がますます広がっている。 学術の成果が社会を変え,変わった社会が学術の新しい在り方を求める という,ダイナミックな変化が起こりつつある。 そのプロセスは、一方では人類にますます快適な生活を保障するものの、 他方では環境問題を深刻化させ、人類の未来に暗い影を投げかけている。 「持続可能な発展」を実現することは、地球が有限であるという認識が 行き渡ったことから生まれた未来への手詰まり感を克服するため、 国際的に広く合意された課題である。 この困難な課題を達成するためには、あらゆる学術を動員すること、 またそれが効果的に行われるためには 「Science for Science(知の営みとしての科学)」と並んで 「Science for Society(社会のための科学)」を 認識評価するという学術研究者の意識改革が必要である・・。
17世紀に誕生した近代科学は、人間が立てた目的や求める価値を 知の営みから切り離し、純粋に客観的な立場から 自然を探求する立場を取った。 この立場は知の合理性を高めることに大きく寄与し、 自然科学だけではなく法学、経済学、社会学など 人文・社会科学系の分野にも受け継がれた。 「あるものの探究」は知のひとつの基本範型となった。 一方で人類は、近代科学の誕生以前から、その知的能力を用いて 農耕技術、建築術、医術などさまざまな実践的な技術を獲得し、 自らの生活や社会を向上させてきた。 技術は目的や価値を実現するための、「あるべきものの探求」であり、 近代科学によって合理的な基盤を与えられはしたが、 知の営みとしては一段と低い地位に置かれた。 「実学」という呼称はこのことを象徴している。 しかし、人類が直面する深刻な課題を解決するためには、 「あるものの探究」である科学と「あるべきものの探求」である技術が 統合されなければならない。それこそが学術の真の姿である。新しい学術の体系|日本学術会議より(一部文言省略)
「終りなき努力」が人間の習性である以上、 科学と技術の発達を止めることはできないが、 その方向を変えることは可能だ。 特許をとるための実用的研究も必要だろうが、 少なくとも大学の研究にまでそれを求めるような 経済優先の風潮は改めて、 かつてのように科学者が哲学者に戻り、 私たちの心を豊かにするための知的興味の探求と、 積み残された現代社会の問題を解決するための研究、 そして心の豊かさを得られる社会の構築のための科学技術に方向を 転換すべき時が来ているのではないだろうか。「終りなき努力」の行方|日本学術会議より
学問は一般に「学問領域 (Discipline) 」と呼ばれるカテゴリーツリーに位置付けて整理します。明確・絶対的な区分法があるわけではありませんが、その一般的な分類を知った上で、それを俯瞰する視点を持つことが有益です。
記号によって記述される抽象的構造を公理や理論上のアイデアから推論(純粋な思考の過程)によって導出する分野です。
形式科学の特殊性について・・
なぜすべての科学に比べ、数学が特別に感じられるか という疑問に対しての一つの答えは、 その法則が絶対的に確実で論争になりえないからだ。 一方で、他の諸科学は、一定程度議論の余地があり、 新しく発見された事実によって 権威の座から引きずり降ろされるという危険がつねにある。
アルバート・アインシュタイン*1
実験、観察、調査など、経験を通して研究する科学。
形式科学とは異なり「学説」が存在します。
先端的な研究や、対象が複合的な研究では、複数の学問分野の共同研究が成果を生む場合が多く、領域を横断する、あるいは境界領域を攻める研究を「学際的な研究」と呼びます。
経験科学には、書斎科学、実験科学、野外科学の3つのスタイルがあります。
参考:川喜田二郎, 1967, 発想法, 中央公論
研究というものは、それを捉える視点の違いで、様々な分類があります。
対象をどのように観察して表現するかに注目すると、研究の方法は、定性的研究と定量的研究の2つに分けることができます。
対象の性質に注目して分析する研究アンケート調査、事物や現象の観察、また発話や文章などの「質的データ」を対象とした研究で、対象の持つ性質から知見を得ることを目的とします。
対象を数字や数量として分析する研究統計データなどの「量的データ」を用いた研究で、全体を数値として整理した結果から知見を得ることを目的とします。
研究は、仮説の構築、計画、検証、評価・考察というプロセスを経て行われます。論文の構造としての IMRAD(イムラッド)と同様です。
Introduction, Methods, Results And Discussion
研究対象と目的をを整理すべく、文献調査、や予備実験等を行います。
これからおこなう一連の活動によってどのような問題を解決、解明しようとするのかを決定する。また、これから解決、解明しようとする問題にどのような切り口から光を当てるのか、どのような着眼点を持つのかをまとめる。
ああすればこうなる(因果関係)、ああであればこうである(相関関係)など、物事の関係を「仮説」の形で明文化して、研究の目的を明確にします。
調査方法、実験方法など、仮説を検証するめの方法を明らかにします。特に実験研究では、追試によって「検証可能」であることが必要なので、方法は詳細に定義することが必要です。
研究方法に従って、調査・実験を通してデータの収集、データの解析を行います。いつ・どこで・誰が・・など、データとしての基本情報も含め、詳細な記録を残すことが必要です。
調査・実験の結果を(統計的に)まとめ、仮説を検証する考察を行います。実験の結果によっては、仮説とは別の新たな知見が得られることもあります。結果として得られた知見が、他の先行研究との関係において、どう位置づけられるかについて語ることも重要です。
研究の成果は、公開・共有されなければ意味がありません。一般に、学会発表・専門誌等で公開します。研究に対する評価、意見等を得ることで、さらなる発展的な研究へとつなげます。