すべての始まりは、2020年夏…コロナ禍の真っ只中に不登校になってしまったことから。
2020年2月末からの緊急事態宣言に伴い、長く続いた臨時休校のせいで、私には完全に休み癖がついていました。学校や友達に対する興味は、その休校の最中にすっかり失い、生活に必要な動作以外をスマートフォンと一緒に過ごしていました。
春が終わり学校が再開するも、勉強や課題はまともにせず、眠るために布団に潜っても画面ばかり見て、結局眠らずに学校に行き、授業中に寝るという悪行を毎日繰り返していました。
そして、2週間という短い夏休みが明けた頃のことでした。
私は体調が悪いと母に嘘をついて、学校を1週間休みました。久しぶりに登校すると、夏休み前と同じようにいつも通りに話しかけてくれる仲の良い女の子たちがいました。
「休んでた間、何してたの?」と聞かれ、私は素直に
「ずっとゲームしてたよ」と答えました。
次の日から、私の周りに人が集まることはなくなりました。私に向けられたのは、軽蔑の目でした。
通っていたのが小中一貫校だったこともあり、「小学校6年間で築き上げた友情はこんなにも簡単に無くなってしまうのか」と中学生ながらにして大きな絶望を味わいました。物理的な暴力こそ受けませんでしたが、言葉による精神的苦痛は計り知れないものでした。「日頃の素行の結果だ」と一言で片付けてしまえばそれまでですが、当時の私にとってはあまりにもショックすぎる出来事でした。
18歳になった今改めて考えると、普段どうり学校を頑張っていたのに、「友達は家でずっとゲームをしていた」なんて怒る以外にありません…
さらに、当時は親も不登校に対する理解がない時期でした。
朝、聞き馴染みの無い声で目覚めると自分の部屋に先生が居て、布団から引っ張られて起こされる、なんていうこともしばしばありました。プライベート空間と学校との境目を感じなくなり、私にはどこにも逃げ場がないように感じていました。
そうして、週に1〜3日学校へ行くか行かないかの完全な不登校になり、大好きだったはずのみんながいる教室に入る気持ちもなくなりました。ご飯も喉を通らなくなり、人生で初めて「自殺」を考えた時期だったと、今振り返ると思います。
平日の昼間、誰もいない静かな家で、私の頭は「死」に対する強い興味と、「なんのために生きていくのだろう」という答えのない問いで満たされていきました。
インターネットの海を泳げば、自分と同じように死にたがっている人は山ほどいるのに、どうして私の近くには一人もいないように思えるのだろう、と不思議でなりませんでした。
幼い頃から私は自分を客観視できる人間だと言われていました。そのおかげか、ただ感情的に「死にたい」と溺れるだけでなく、「なぜ私は死にたいと思うのだろう」「そもそも自殺はいけないことなのだろうか」と、自問自答を繰り返すようになりました。その疑問の延長線上で、高校生の頃には哲学や心理学に興味を持つようになり、やがて「自殺学」という学問に出会うことになります。
これが、自殺学に対する興味の原点でした。
自殺学とは、人が自ら命を絶つという現象についてその原因を解明し、心理学、社会学、精神医学、哲学、歴史学など、多角的な視点から科学的に研究する学問領域です。
一般的に「自殺」は、個人の心の弱さや、突発的な精神状態によるものと片付けられがちです。しかしこの自殺学では、その背景にある社会的な孤立、経済的な困窮、文化的な要因などをデータや理論に基づいて冷静に解剖しています。
単に「死なないためにはどうすべきか」という予防の視点だけでなく、「人はなぜ自殺をするのか」「目の前の苦しい人をどう救うのか」という、人間の心理や自殺の根底にある問いに迫る学問、それが自殺学だと私は考えています。
自殺学(Wikipediaより)
私がこの学問の中で特に支持している研究者がいます。 それが…
和光大学(現代人間学部 心理教育学科)の教授であり、全学生が受けられる共通教養講座として「自殺学」を教えている末木新(すえきはじめ)さんです。
多くの自殺予防の専門家や世の中の人々は、「生きていれば必ず良いことがある」「自分の命を大切にしよう」「周りに悩みを打ち明けよう」といった道徳論や綺麗事を語りがちです。しかし彼は、そうした安易なアプローチを明確に否定しています。
彼は臨床心理学をベースにしながら、インターネット上の自殺コミュニティやSNSの「死にたい」という書き込みなど、普通ならスルーされてしまうような生々しい声を長年研究しています。だからこそ、「死にたいと思うのはその人が弱いからではなく、そう思わざるを得ない構造があるからだ」という、冷徹ですが広い客観的な視点を持っています。
著書である『「死にたい」と言われたら—自殺の心理学』は、新書ではなく、そうした感情の現場に向き合い続けてきた彼だからこそ書ける、リアルで圧倒的に面白い一冊です。また、中高生でも読みやすく、専門用語には解説が付いており噛み砕いた表現にしているため、読んでいて理解しやすいと思います。
「死にたい」と言われたら—自殺の心理学(ちくまプリマー新書)