はじめに

シラバスには、「視覚情報の 伝達と表現に関して、情報の送り手側の編集行為、受け手側の認知、そして情報伝達媒体の特性、それぞれについて概説し、ビジュアルデザインについての総合 的な知識と発想力を養う」と記載しています。

要するに、「目に見える情報」とその「メディア」について、様々な話題を提供します。講義を受講するにあたっては、以下のことを念頭において下さい。

この講義の目的は、みなさんがビジュアルデザインについて「考える」きっかけを提供することです。講義で話したことを「覚える」必要はありません。調べれ ばわかることを覚える必要はありません。「その情報がどこにあるか」がわかっていればそれでOKです。 

答えは1つではありません。 絶対的に「正しい考え方」があるわけでもありません。よって、私の話も「ひとつの考え方」にすぎません。大人の話を鵜呑みに せず、「自分の考え」をしっかりと築きあげて下さい。   

ノートをとるときは、「講義の内容をメモする」ということよりも、「講義を聴いて自分が考えたことをメモする」ということを心がけて下さい。あなた自身の考え方を築き上げることが大切です。

「あたりまえのこと」に疑問を感じてください。「あたりまえのこと」には理由があります。その理由を見出すことができれば、人が関わるあらゆるデザインに応用できます。

身のまわりにある「わかりにくいもの」・「誤解を招くような表記」に疑問を感じてください。すべて、「良いデザインとは何か」を考えるための反面教材で す。

「何を作るか」という意識と同時に、「何を作らないか」を考えることも大切です。「省く」ことによって、本当に大切なものが見えてくる場合があります。

デザインの仕事には 「見る側(ユーザ)の視点で考える」 という姿勢が必要です。 「見やすく・わかりやすく」という思考が、自然と美しい形に導きます。

「自分のため」の仕事は一個人のスケールをこえることができませんが、 「他人のため」の仕事は大きさ無限大です。

地球環境の未来について、常に意識するように心がけて下さい。 プロダクトやスペースの分野と異なり、ビジュアルデザインの仕事は直接環境にインパクトを与えるものではありませんが、 例えば、必ずしも紙媒体にこだわる必要のない仕事については、 それを電子媒体に置き換える・・という提案をすれば、紙資源の問題、輸送に要するエネルギーの問題、ゴミ処理の問題など、コスト削減になるだけでなく、多くの環境負荷を軽減することができます。




デザインの領域




1回目の講義なので、はじめに、この科目のタイトルでもある「ビジュアルデザイン」の領域を確認しておきたいと思います。
1年次の「デザイン概論」の講義でも紹介されたと思いますが、上の図のような「三角形」を用いて図式化するとわかりやすいでしょう。



「理論」について

この科目には、「論」という文字がついています。「理論」のことです。これが、難題です。
辞書によれば、
(1)科学研究において、個々の現象や事実を統一的に説明し、予測する力をもつ体系的知識。狭義には、明確に定義された概念を用いて定式化された法則や仮 説を組み合わせることによって形作られた演繹的体系を指す。「―を確立する」
(2)特定の研究領域や個々の学者の学説や見解を指すこともある。「批評―」「湯川―」
(3)実際の経験から離れて純粋に思考の中で組み立てられた知識。「実践」に対立し、否定的意味で使われることが多い。
と、記されています(引用:goo辞書)。

ちなみに、対義語は、「実験」です。

さて、簡単に(乱暴に)言えば、理論というものは、ほとんどの場合、「ああすればこうなる」というかたちで何らかの法則を述べたものになります。 何か と何かの「関係」、それは因果関係でもいいし、相関関係でもいいのですが、そういうものごとの「関係」を説明する知識、あるいはその解釈のことを、「理 論」というわけです。

世の中には「○○理論」といわれる「理論」がたくさんあって、ビジュアルデザインに関連するものとしては、美学の世界の理論もあれば、心理学の世界の理 論、また工学分野の理論も含まれます。そうした関連理論の集大成が「ビジュアルデザイン論」だとお考え下さい。

しかし、むずかしく考えないで楽しみましょう。ここでは、視覚情報のかたちで現れるデザインについて、こう描くとこう見える、こう組み合わせるとこう見え る、といった「ああすればこうなる」話をいろい ろ紹介したいと考えています。

私は、人間と他の動物との大きな違いは、「予見と計画」ができるかできないかの差であると考えています。つまり、「先のことを考えて、今やるべきことを計 画する」、これができるかどうかの差ではないかと・・・。 そして、デザインとは、まさにその「予見にもとづく計画」であり、人間特有の頭脳をフル回転さ せ て実現するものなのです。

予見と計画
p ・J・ウイルソン(1983)の有名な言葉を紹介し ましょう 。 「最も巧みな蜜蜂と最も無能な建築家の違いは、建築家が設計図にもとづいて仕事をすることである。」『人間―約束するサル』佐藤俊訳

ですから、世の中にある様々な「ああすればこうなる」 法則を知っていることが重要です。「理論」を知ることで様々な「予測」や「制御」が可能になるのです。

ここで紹介する様々な知見が、みなさんのデザインの糧になれば幸いです。



講義概要

第1回
ガイダンス
第2回
イメージの起源
第3回
造形的発想法
第4回
デザインのセオリー
第5回
視覚の心理
第6回
日本人の美意識
第7回
ビジュアルデザインの領域1 文字
第8回
ビジュアルデザインの領域2 写真
第9回
ビジュアルデザインの領域3 グラフィックデザイン
第10回
ビジュアルデザインの領域4 エディトリアルデザイン
第11回
ビジュアルデザインの領域5 映像・アニメーション
第12回
ビジュアルデザインの領域6 コンピュータグラフィックス
第13回
ビジュアルデザインの領域7 Web・ゲーム
第14回
総括

随時、出席確認を兼ねた簡単な質問シートを配布し、当該テーマに関する質問をします。皆さん自身の意見や趣向を尋ねるもので、「正しい回答」を要求するものではありませんので、自由に記述して下さい。次の回に、お互いの参考になりそうな意 見を紹介します。




成績評価・課題レポートについて

成績評価は、期末のレポート提出、および質問シートに対する記述、また出席状況等を総合して行います。

課題レポート

以下の5つのテーマの中から、1つを選んでレポートとして提出して下さい。
形式 : A4・縦・40字×36行スペース(図版含む)・3枚
    ※手書き、PC出力、いずれでも構いません。
提出日: 7月※日(最終回当日に集めます)
    ※原則として、この日に提出してください。 
最終提出締め切り: 7月※日(前期試験終了日)  
    ※他の課題締めとの関係で、やむを得ない場合に限ります。 
テーマ(以下から1つ選択):
 1) 人はなぜ絵を描くのか
 2) 視覚の特質(聴覚との比較)
 3) 日本のグラフィックの特質
 4) ビジュアルデザインにおけるアナログとデジタルの比較
 5) わかりやすく伝えるためのビジュアルデザインのルール

 皆さん自身の今後のデザインワークに関わるひとつの学習機会と捉え、自分の言葉で考えをまとめてください。





非常に現実的な話になりますが・・・


2年次となった今年、以下の項目については、早めに準備してください。

Webリテラシー
インターネットへの接続環境がない方は、将来への投資と考えて早めに準備をすすめて下さい。この有無が後の課題遂行やチャンス獲得について、大きな格差を 生んでいることは否定できません。
コンピュータやネットワークに対しては、そこに様々な危険や落とし穴があって、否定的な考え方が多いことも事実ですが、個々人がネットワークに関わること でできあがる自律分散型の協調システムは、これからの社会には不可欠なものです。車の運転技術と同様、リスクをきちんと理解したうえで、その恩恵に預かる ことが大切です。
そしてできれば、ブログでも何でもいいですから、自分の作品を公開しましょう。


自分の作品のデジタル・アーカイブ
課題として取り組んだ作品、自主制作、スケッチ、らくがき、あなた自身が手がけたものは、すべてあなたの著作物です。
その都度、スキャンして画像データ化すれば、あなたのポートフォリオの資源となります。また、グループ展などを開催したときは、必ず写真に記録を残してお きましょう。そうした各種の画像ファイルを整理する過程で、「自分らしさ」を再発見することもできます。漫然と課題を提出して終わりにせず、作ったものは とことん大切にして下さい。
ちょっと汚して失敗した作品でも、スキャンしてから修正すれば復活します。「それをポートフォリオに入れてもいいんですか?」・・・という、とてもまじめ な質問を受けることがありますが、「あたりまえです。」と答えることにしています。確かにコンピュータに頼ることで安易になるというマイナス面もありま す。しかし、アナログにはできなかった問題を解決すべく、コンピュータという道具がこの世に登場したわけですから・・・、つまり人間がそれを必要として生 まれた道具なのですから、わざわざ否定しても仕方ありません。私は積極的に活用することを勧めます。
コンピュータにはアンドゥ(Undo)という機能があります。つまり失敗しても取り返しが利くのです。これは一種のタイムマシンです。使わない手はありま せん。


人と関わること
Webの話とは視点が変わりますが、生身の世界でもネットワークが必要です。これまでサークル・部活の経験やアルバイトの経験がある人は、年齢や立場の異 なる人との対話に慣れていると思いますが、そうでない方は、少し意識して多くの人と関わるようにしてください。
これまで一人で絵を描いてる時間が長くて、人との接し方がよーわからんという方は、とりあえずテレビドラマなんかをたくさん見て下さい。社会人風の会話感 覚が身につきます。いわゆる標準語も身につきます。
初対面の人と関わるのはエネルギーのいることです。相手のレスポンスを見ながらこちらの対応の仕方を絶えず調整するわけですから、疲れるのはあたりまえで す。「みんなそういう思いをして働いているんだ」と思えば、覚悟もできるでしょう。
来年の後期には就職活動スタートです。イラストレータとしてフリーでやっていくにせよ、直接的な人との関わりが重要です。避けては通れませんので、すこし づつ慣れるようにして下さい。


蛇足ですが・・・ 目・肩・腰を大事にしてください
デザインの仕事、特に毎日画面に向かう仕事となると、人生の大半を四角い画面の中で過ごすことになります。これも厳然たる事実です。
プロたるもの、それを長く続けるということが求められますので、日頃から作業の姿勢や休憩のとり方などに配慮してください。


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 ”less is more” 
Mies van der Rohe
の有名な言葉です。

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