“やらなかった” 自分を責めないポジティブブック
現代はSNSを中心に「できたこと」「成果」が強調されやすい時代。その中で、行動できない自分に対して罪悪感を抱いたり、無意識に自己否定を繰り返してしまう人が少なくない。特に10~30代の若い人たちは、自己肯定感の低さや完璧主義による疲労感に悩む人が目立つ。
こうした状況で、「何もしなかった日にも意味がある」と記録できるツールは、心の健康を支える新しい選択肢となる。日々を「何をしたか」ではなく「どう在れたか」で記録する手段は、心のバランスを保つ上で重要。
本書は、毎日を「やるべきこと」で埋め尽くし、自分を責めがちな人に向けて、“やらなかった日を記録する”という習慣を提案し、日々の「何もしなかった選択」を肯定的に書き留めることで、感情や生活リズムを可視化し、自己肯定感の回復と心の安定を促すことを目指す。
夏休みから実際のユーザーに試作品を配布し、記述式のフィードバックを得たことで、“デザインをつくる側の理想”と“使用する側の現実”の間に、想像以上に大きなギャップが存在することを実感した。
特に、「記入欄が多くて手を出しづらい」「書くこと自体に気力が湧かない」という意見は、自己肯定を目的としたツールであっても、ページ構成や書式にわずかな負担が生じるだけで、ユーザーの行動が大きく制限されてしまうということを示していた。そのため「何もできなかった自分を責めない」「行動を記録しなくても存在が認められる」という考え方を軸に、書かない・問わない・受け取る という極めて負荷の少ないものにした。
また、心の状態に合わせてページを開くだけで、「休んでもいい」というメッセージに触れられるよう、ユーザーが日々の中で自然と自己肯定感を取り戻すための“静かな余白”を大切にした。行動を促すのではなく、心を回復させるための “回復のリズム” を生み出すことを目指した。
このノートは、「頑張れなかった日」や「なにもできなかった日」さえも、やさしく受け入れて記録できる、“自分のペースで使えるノート”。書けない日があっても、なんとなくめくって眺めるだけでも、「今の自分」を肯定できるようなやさしい構成になっている。生きているだけで進んでいく時間を、そっと記録する。
(1)表紙
やわらかな色合いと、静かな時間を感じさせる装丁。
「今日もここにいた」と、手に取るたびに思えるデザインを目指しています。
(2)巻頭ガイド
このノートが生まれた背景や、使う人へのやさしいまなざしを込めた言葉を添えている。
(3)おやすみしたことページ
お守りメッセージ
過去の自分からちょっとしたご褒美メッセージ
(6)デザイン
調査
若者が「できなかった日」や「立ち止まった時間」をどのように受け止めているのかを把握するため、10〜20代の若者28名を対象にアンケート調査を実施した。調査の目的は、SNSにおける他者との比較が自己肯定感に与える影響、“できなかった日”に生じる感情、求められている自己回復の方法、「立ち止まった日を受け止めるノート」への需要の有無を明らかにすることである。
調査の結果、SNSで友人の成功や楽しそうな投稿を見ると、「自分と比べて落ち込む」「置いていかれる気がする」といった回答が多く、日常的に比較意識によって自己肯定感が揺らぎやすいことが分かった。また、「今日は何もできなかった」と感じた日に最も多かった感情は「焦り・罪悪感」であり、続いて「落ち込む」が多く、できなかった日を肯定的に捉えることが難しい傾向が明確に示された。さらに、完璧にできなかったときに不安を感じる人は全体の7割を超え、多くの若者が日常の中で自己否定やプレッシャーを抱えていることが確認できた。一方、疲れたときの自己回復方法として多く選ばれたのは、「家でひたすら休む」「楽しいものを食べる」「誰かと話す」など、負荷の少ない“静かな回復”であった。また、「立ち止まった日を受け止めるノート」があればどう感じるかという問いに対しては、「気持ちが楽になりそう」「安心できる」といった肯定的な回答が約8割を占め、新しい自己肯定感支援ツールへの明確な需要が示された。
これらの調査から、若者は“がんばること”よりも、“がんばれなかった自分を責めずに受け止めてくれる存在”を求めていることが明らかになった。この結果は、負荷なく触れられる「お休みする本」というコンセプトの必要性を強く裏付けるものとなった。
本研究で制作した「お休みする本」は、従来の“成果を記録するノート”とは異なり、「できなかった日」を前提に体験を設計した点に特徴がある。このアプローチにより、休むことや動けなかった時間を肯定する仕組みが、心理的な安定に寄与することが分かった。
試作版の体験者からは、書くことよりも“受け取る言葉”が心の整理につながるという声が多く、行動できなかった自分を責めがちな人にとって、過去の自分から認められる構造が自己肯定感を静かに支えることが示された。
デザインを“使い手の状態や心理を理解した設計”へ転換する必要性を強く実感した。使用者の声を反映して改善を行うことで、作品がより「人に寄り添うもの」へと近づく感覚を得ることができ、本研究の大きな成果となった。
こども家庭庁『こどもに関する調査研究等の概要(2024年6月20日版)』
DIAMOND ONLINE(2024年3月1日)
似た作品
A6変形(ポケットに入る)か、B6(手帳と一緒に持ちやすい)。
厚さは60~80ページ程度で、「毎日は書かなくてもいい」余白感を意識。
1ページの記録欄はぎっしり詰めず、最低限の項目で気軽な感じ。
その日を「評価」するのではなく、「柔らかく分類する」ページ構成
発表後の構成案
「できた/できなかった」ではなく、"ただの状態"として今日を記録する
天気や感情から入ることで、書くハードルがグッと下がる
"できなかった"をネガティブに書かせない、選択式orポジティブ表現で包む
1.「できなかった日」に対する受け止め方はさまざま
「まあそんな日もある」派(39.3%)が最多だけど、
「焦る/罪悪感がある」(32.1%)や「自分を責める」(14.3%)もいて、
肯定と否定が半々くらいで揺れてる印象。
ノート活用:
→「今日はこれができなかったけど、○○はできた!」みたいに“できなかったこと”の隣に“やれた小さなこと”を書く欄をつける。
→「できなくていい理由メモ欄(今日の言い訳、書いとこ)」みたいなユーモアあるスペースを用意して、“許す”文化を作る。
2. SNSでの“できた報告”を見て落ち込む人が多い
「自分と比べて落ち込む」(35.7%)が最多。
「焦るけど励みにもなる」も17.9%。
他人の成功と自分を比較しがち。でも前向きに変換する人もいる。
ノート活用:
→「今週の“自分だけのえらいこと”」を書く欄。人と比べず、自分基準での“できたこと”を見つける習慣をつくる。
→「SNSで見たことで、ちょっと心がざわついたことと、その気持ちの整理欄」など、自分の感情の棚おろしができる場に。
3. 完璧じゃないと不安になる人は多い
「時々ある」(71.4%)が圧倒的。
ノート活用:
→1日の終わりに「今日は○○しなかった。でも、それでいい理由」など、“しなかったこと”を肯定する問いかけをセット。
→「しなかったことで守れたもの/気づいたこと」などの反転の視点を加える欄も◎
4. 回復のしかた:寝る&美味しいもの強し!
「寝る/休む」(71.4%)、「美味しいもの食べる」(57.1%)が圧倒的。
心も体もほっとできることがキーっぽい。
ノート活用:
→毎週、「今週の回復アイテム」欄(食べたアイス、美味しかったごはん、爆睡した朝など)
→ページの端にほっとする言葉やイラストをちょこっと散りばめておく
似た作品
既存の「やらない系」書籍は、どれも“人生の選択肢を絞ることで自分らしく生きる”というメッセージを持っており、特に中高年層のキャリアに悩む人向けに論理的な“手放し”を提案している。
一方、私の作品は、もっと感情に寄り添う視点で、「できなかった自分も、ちゃんと存在していていい」と記録を通じて肯定する構造になっている。
書くことのハードルを下げるデザイン、余白を残すページ設計、やさしい言葉づかいを通じて、
“自分を認める”という静かな肯定感を育てる作品として差別化を目指す。
中間発表